定年退職の後や年金受給の時期など、考えなければならないことが山ほどある「老後の暮らし」。哲学者・小川仁志さんは、これから訪れる「人生100年の時代」を楽しむには「時代に合わせて自分を変える必要がある」と言います。そんな小川さんの著書『人生100年時代の覚悟の決め方』(方丈社)から、老後を楽しく生きるためのヒントをご紹介。そろそろ「自分らしく生きること」について考えてみませんか?
「ポジティブな孤独」を楽しむ
人生の時間が長くなるということは、それに比例して一人でいる時間も長くなることを意味します。
人間誰しも、ときには一人になりたいものです。
一日のうちでもそうでしょうし、人生の一時期というスパンでもそんな気持ちになることがあると思います。
ただ、人生100年時代にはその期間が長引くことが考えられるのです。
そのとき、はたして孤独に耐えられるかどうか。
逆にいうと、孤独に耐えられる性格になったほうが、人生を楽しめるともいえます。
私はそれをポジティブな孤独と呼んでいます。
パーティで騒がなくても、あえて一人でカラオケに行って楽しめるような人のことです。
一人でできることはたくさんあります。
しかも一人でやるということは、すべて自分の好きなように、好きなペースでできるので、本当はこんなにいいことはありません。
もし、孤独でいることを心から気にすることなくできるならの話ですが。
コミュニティと孤独は両立できる
そのためには、まず人と何かをすることのマイナス点に目を向けるといいでしょう。
誰かに合わせるのは大変ですし、期待を裏切られることもありますよね。
パーティに参加していてもむなしくなる瞬間があるのは、こうした理由からです。
パーティ型の人生が必ずしも楽しいわけではないのです。
それに対して、孤独のメリットはたくさんあります。
たとえば一人でカラオケに行ったとしましょう。
まず歌い放題です。
我慢して人の歌を聴かなくても済みます。
同じ曲を何度歌ってもいいですし、途中で切ってもいいでしょう。
時間も気にする必要はありません。
個人主義の国アメリカでさえ、コミュニティが崩壊し、個々人がバラバラになっているといいます。
そのことを象徴的に表現したのが、ロバート・パットナムの『孤独なボウリング』(柏書房)という本です。
2006年に出版され、全米でベストセラーになりました。
かつてはみんなでボウリングをしていたのに、今は一人で行く人が増えているというのです。
それを日本に当てはめるなら、「一人カラオケ」だという議論がありました。
でも、そのことをそんなにネガティブに捉える必要はないと思うのです。
コミュニティの活性化と、孤独を楽しむ生活は両立すると思います。
コミュニティの活性化は、同調圧力によっては実現できません。
かつてはそうだったのかもしれませんが、いったんそれが崩壊し、個人主義的生活が基本になった現代にあって、また同調圧力によってコミュニティを再生させようというのには無理があります。
そうではなくて、コミュニティは、むしろ個人が孤独をポジティブに楽しめるように、セーフティネットとして存在すればいいのです。
つまり、孤独を楽しむ個人が困ったときは助け合いの輪に入れるような、もっとお気軽で緩やかな紐帯であるべきだと思うのです。
孤独死をなくそうという掛け声のもと、見回りの人たちが毎日やってくるのは、はたしていいのかどうか。
ここには孤独死は悲しい、全員が誰かに見守られながら死にたいと思っているはずという価値観があります。
でも、私自身は死ぬときは周囲を気にせず、一人で死にたいと思っています。
そういう人もいるはずなのです。
積極的孤独死を望むような人が。
人生100年ともなればなおさらでしょう。
100歳になった姿を人には見られたくないという人も出てくるはずです。
だからコミュニティはセーフティネットでいいのです。
パーティをしながら死にたい人もいるでしょうが、一人カラオケをしながら死にたい人もいるはずですから。
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哲学者が語る20の人生訓や新時代への考え方など、人生を豊かにしてくれる言葉が全5章にわたってつづられています