アメブロで「~こんな事を言っちゃあなんですが!~」を運営しているかづと申します。現在は夫婦二人と3ニャンとで暮らしています。今から20年以上前、私の嫁時代の体験を思い出しながら書いています。
【前回】「持って3カ月」余命宣告を受けた実父。手術を受けるか否か、弟たちとの虚しい口論/かづ
【最初から読む】アッシー・メッシー・貢君だった彼が突然父に結婚の挨拶! 夫との馴れ初め/かづ
父は自分が片肺まで切除したんだからと、一日でも早い社会復帰を確信しているかのようだった。
しかし、やはり下弟が医者から聞いて来たとおり癌は全身に散り、日に日に父はベッドから起き上がれなくなってきた。
肺の切除手術さえしていなければ、ちゃんと告知していれば父なりの最後までの期間の過ごし方が出来ただろうに、最後に行きたい所に旅行に行けたんじゃないだろうか、そんな思いが胸を締め付けた。
実はこの1年前の事。
父からみんなで旅行に行かないかと誘われた。
上弟夫婦に下弟と、私と子ども2人でとの事だった。
その話しを夫にすると急に不機嫌なオーラを放ち、深い溜息を何度もした。
「えっ? 行ったらあかんの?」
「金はどうするん!?」
当時は子供の教育費や、マンションのローンに固定資産税、管理費などで余裕のある状況じゃないのは分かっていた。
けれども今まで夫の舅姑に尽くして来た事を考えれば、結婚後初めて実家の親と旅行に行くくらい良いじゃないかと思った。
父の日や母の日に誕生日に敬老の日と、舅姑にかかった金が今までいくらだったのか。
そっちの方がもったいない。
「あんたの親とも旅行に行ったやないの! うちの親と初めて行くその1回がなんであかんの?」
「うちの親と行く旅行は旅費は全部親が出してくれてた! そっちは各自持ちなんやろ? お義父さんが旅費出してくれるんやったらええで!」
そりゃあお前は上げ膳据え膳で温泉に入って美味い物食べてダラダラ出来て、尚且つ1円も払わなくて済んだんだから楽しい旅行だったんだろうよ。
舅姑との旅行は確かに宿泊代や食事代は出してくれた。
けれども、荷物は全部私が運び、お茶を入れたりご飯をよそったり、何かにつけて私が雑用の全てをやらされていた。
逆に、むしろその家政婦の様な役割の為に連れて行かれた感があったので、楽しかった思い出どころか旅費を出してくれたことに対してありがたくもなんともなかった。
1年後に父がこんな事になるなら、借金してでも旅行に行けば良かったと後悔している自分自身に腹が立った。
【孝行したい時には親は無し】と言うことわざが頭に浮かぶ。
自宅で家事をしている時に下弟からメールが届いた。
「お父さんの脳に癌が飛んだらしい。僕の顔見ても分からん時が出て来た」
目の前が真っ暗になったが、来る時が来たんだと思った。
下弟のメールは続く。
「急にベッドから立ち上がろうとしたり、点滴を引き抜こうとするから付き添いがいるって言われた。姉ちゃんお願いできるかな? 僕も兄ちゃんも仕事があるから付かれへんから」
私だって家庭があるし、子どもも2人いるからそんなやすやすと付き添いをする事に返事は出来ない。
すると今度は下弟から電話が掛かって来た。
「夜は僕が付くから、昼間と僕が会社から帰る夕方まで姉ちゃんついてくれへん?」
「いや、私も家の事とかあるし。」
そう言うと被せるように下弟はこう言った。
「姉ちゃんも娘やろ? 病院の手続きやら何やらは僕がやってるやん! 姉ちゃんも娘やったらしてくれてもええやん! 兄ちゃんは体拭くのもおむつかえるのも出来へんて言うし!」
下弟も病院から言われて、相当切羽詰まっての事だろう。
その次の日、朝早く家事を済ませて父の病院に向かった。
ちょうど意識があったようで、私の顔を見てちょっと不思議そうな顔になった父。
「なんでここにおるんや?」と言う顔つきだった。
「私が今日は付き添うからね」と言うと、父は口パクで「ほんまか!」と嬉しそうな笑顔になった。
もう父は声が出なくなっていた。
夕方になって下弟とバトンタッチし、急いで家に戻る。
朝用意して行った食事の用意を、息子達が食べてくれていてホッとしたが、案の定舅は何一つする事無く孫の世話になっていて、むしろ嫁の私が居ないのをいいことにしていつも以上に飲んでいたようだった。
当時夫の帰りは深夜0時前後だったので、何一つあてにはできず、あてにしたところで何ができるでない夫は、私としては数には入っていなかった。
朝早く病院に行って父に付き添い、夜の18時過ぎに下弟と代わってから帰宅する日々が数日続いたが、下弟がもう夜に付くのは出来ないと言い出した。
日中睡魔に襲われて、仕事でミスが続いたと言う。
父は絶えず朦朧としていて、意思の疎通は出来ない状態になっていた。
持ってもそう長くは無いだろう。
私はその日から夜も付き添う事になった。
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