<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:58
プロフィール:農家の長女を嫁にもらいました。義父(83歳)には家業を継ぐのは諦めてもらいましたが、家は別のようです。
2020年の3月のお彼岸、都会は新型コロナウイルス騒ぎで大変そうな中、私が住むのんびりした田舎では普通に墓参りをしていました。
実家を出て、妻(56歳)の実家にほど近い所に住まいしている身の上のため、墓参りは妻の実家が優先です。
墓の掃除をしていたところ、一緒に墓参りに来ていた義父(83歳)が口を開きました。
「ウジさんは、お墓のことは考えてる?」
「え? 自分の、ですか?」
「そうそうウジさん家の墓さ、どうだい、うちの隣が空いてるからそこにしたら?」
義父とは30年前、妻と結婚する際にこんな会話をしていました。
「ウジさん、一人娘を嫁に出すのは辛いもんだよ」
「はい、お義父さんのお気持ちを思うと、本当に申し訳ないです」
「ウジさんは婿に入るのは無理だって言うしさ、まあ、娘が惚れたんだからしょうがないとは思ってるけどね......」
「...はあ...」
「せめてさあ......うちで一緒に暮らしてくれないか? 幸い2階は空いてるし」
「えっ!?」
「なあ、そうしてくれよ、そうしたら俺たちも寂しくないしさあ」
それじゃあ、まるで婿入りじゃないか、と思いましたが、むげにも断れず実家の両親(当時58歳、現在は88歳)にも相談してみました。
「いかん、いかん、それじゃ体のいい婿入りじゃないか」
「そうよ、そのうちお家の仕事も手伝わざるを得なくなって、気づいたら農家の婿になってしまってるわよ」
案の定、両親は大反対です。
結局、妻の実家に近い所に土地を求めて、新居を構えるように私の両親が援助をしてくれることで落ち着きました。
結婚早々家を持つことになったのはよかったのですが、妻と目論んでいた町場に出ての二人暮らしは頓挫しました。
「まあ、味噌汁の冷めない距離ってやつだな、ここならうちにいるのと同じようなもんだ」
義父はしてやったりの表情でした。
その後も、やむなく農作業を手伝えば「筋がいいな、さすがはうちの婿だ」とおだてられ、息子が生まれると「うちの跡取りになるかもしれん大事な孫だ、保育所なんぞに預けることはない」と孫育てに手を出します(これはまあ、ありがたい部分もありましたが)。
そんな風に、義父はことあるごとに「入り婿」扱いしようとするのでした。
墓地の件もこの一端であることは明白でした。
「ああ、いや、まだ、考えたことはありませんねえ」
「だったらいいじゃないか。改めて墓地を求めたら何百万だよ。ここならタダだ」
義父はすっかりその気のようです。
「お父さん、まだそんなこと考えてないって言ってるでしょ。焦って考えるようなことじゃないわ」
妻が助け舟を出してくれて、義父は頭を掻きながらまた墓石を磨き始めました。
ほっとして、妻に目配せで感謝を伝えました。
するといいことを思いついたという風に、義父が顔を上げました。
「ああ、それより、うちの墓に入ってもらってもいいかな、娘と一緒に」
「お父さん!」
「ハハハ、冗談だよ、冗談......」
笑い飛ばす義父の目は笑っていませんでした。
このままいくと、本当に義父の家の先祖代々の墓の墓守として生き、いずれは名字の違うまま入れられそうな気がして背筋が寒くなりました。
まだまだ、義父との「事実上の婿襲名」戦争は続きそうです。
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