<この体験記を書いた人>
ペンネーム:uz
性別:男
年齢:58
プロフィール:妻(55歳)の実家から味噌汁の冷めない距離に住まいする男性です。義母を亡くし、独りになった義父が心配です。
令和最初の年の暮れ、義母(82歳)が亡くなりました。
しばらく前から体がだるいと訴えていましたが、いよいよ立ち上がることもできなくなって入院。
腎臓が機能低下していることを告げられたと思ったら、そこからはあっという間でした。
義父(83歳)は少し認知症の兆候があったので、妻(55歳)が中心になって葬儀を行いました。
葬儀を一通り終えるころには、もう新年も間近になっていました。
義父母のために頼んでおいたおせち料理が届いてしまい、「喪中だからなあ」と逡巡しましたが、捨てるのももったいないと思い、義父母の家に料理だけ並べておきました。
「お父さん、一人で大丈夫かなあ」
妻は不安げでした。
実家は義父母の二人暮らしで、家のことは義母が一切していたので、突然の一人暮らし、義父は大変なはずです。
「一緒に年を越しますか?」
「いやあ、何とかなるだろ」
誘ってみたのですが、そう言ってそのまま実家を動きませんでした。
年を越して、こちらも喪中なので、作ってしまった分のおせち料理を適当につまんで過ごし、午後になって義父を訪ねてみました。
義父は一人でぼーっとしながら、こたつの上の料理を食べていました。
ですが...
「お父さん、これ、どうしたの?」
妻が卓上に違和感を感じて尋ねました。
義父とは別にもう一人分、すでに使って汚れた皿や箸が置かれているのです。
「ん? あいつが食べたんだろ? どこ行ったのかなあ、お前たちが来たのに」
そう言って立ち上がった義父は、台所の方に行ってしまいました。
「これ、誰が使ったんだろ......」
「お父さんしかいないんだから、お父さんでしょ」
「じゃあ、自分で使ったのを、お義母さんが使ったと思ってるってこと?」
二人で訝しんでいるところにお義父さんが戻ってきました。
「おかしいな、どこにもいないんだよ、あいつ」
真面目な顔で言う義父にギョッとしました。
「......お父さん、お母さん、もういないでしょ?」
「えっ? もういないって......え、ああ?」
お父さんは何かを思い出そうとしているようでした。
「年末に、お葬式もしたでしょ? 覚えてないの?」
「え、あ、ああ、そう、だったな......死んだんだった、そうだ...」
そう言って、座り込んでしまいました。
「......えっと、お義父さん。二人で話し合ったんですけど、僕たちと一緒に暮らしませんか?」
「いや、大丈夫だよ。まだまだ面倒を掛けるほどはボケちゃいないから、ハハハ」
思い切って切り出してみましたが、はぐらかされてしまいました。
それから、何度か同居を勧めに行ったのですが、義父の言動は変わりません。
「あいつと相談しないと決められないよ」
「あいつを置いてはいけないよ、今は具合悪くしてるだけなんだから」
などと義母が生きているかのようなことを言うばかり。
そして決まってその後仏壇を見て「ああ、そうか、死んだんだっけなあ」と肩を落とすことを繰り返します。
妻とも真剣に話し合いました。
「認知症が進んでいるんじゃないかしら」
「でも、お義母さんのこと以外はちゃんとしてるぜ。家事もしてるみたいだし......」
「でも、死んでるのを忘れちゃうなんて、ぜったい普通じゃないでしょ」
同居については結局説得しきれていません。
妻の心配は深まるばかりです。
関連の体験記:えっ!全部覚えてるの?「義叔母のスゴイ記憶力」を養う「意外な要因」は...?/バニラファッジ
関連の体験記「そんな気ないぞ、俺は」母が亡くなり一人暮らしの89歳父。兄夫婦との同居を断る「意外な理由」は...
関連の体験記:入院した義母の着替えを取りに、初めて入った義母の寝室。そこで見た「白い箱の山」の中身は...
- ※
- 健康法や医療制度、介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず事前に公的機関による最新の情報をご確認ください。
- ※
- 記事に使用している画像はイメージです。