20代で結婚、2男1女を授かり、主婦として暮らしてきた中道あんさん。でも50代になると、夫との別居、女性としての身体の変化、母の介護...と、立て続けに「人生の転機」が訪れます。そんな激動の中で見つけた「50代からの人生を前向きに過ごすためのヒント」。
施設に入居するお母様が救急外来を受診するという連絡を受け取った中道さん。慌てて病院へ向かうとその顔は腫れあがっていて...
【前回】本格的に寒くなる前に...。沈みがちになる「秋の夜長」を気分よく過ごす方法
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9月に入り老人ホームに入居する母の体調が思わしくありませんでした。
これで一体何度目だろうか...
敬老の日の届けた老舗料理屋さんのお弁当にも箸をつけず、「もうあかん、しんどい」を繰り返す。
その一週間後に誕生日のプレゼントを届けた時には言葉も少なくなり、誕生日に行ってみると、車いすに座っているのも辛そうで、手で追いやるように「帰って」とジェスチャーのみ。
その翌日に施設から電話があり、日曜日だけどかかりつけ病院の救急外来を受診するからというのです。
すぐ病院へとタクシーを飛ばしました。
そこにいた母は、全身が浮腫んで足首はまるで象のようになり、顔は腫れあがっていました。
左瞼はKO負けしたボクサーのように大きく膨れあがり開かず、右目も僅かに眼球が見えるほどしか開いていませんでした。
座位を保つことが出来ないらしく、他の入居者さんのリクライニング式車椅子を急遽借りてきていました。
もたれかかるように体を沈める母を見て、こうなった理由を考えていました。
きっと原因は、また水分の過剰摂取でないかと思いました。
あれから1年以上、施設では厳しい水分管理をされているはずです。
夏ごろから食欲が落ちていて、そういえば毎年土用の丑の日に差し入れる大好物のうな重にも箸をつけなかったと後から聞きました。
まぁなんて勿体ないことを...食べずに捨てられてしまったうな重にも申し訳なくて...。
しかし、「胃が悪くて食べられない」というのでお粥食に変更になったことも知りました。
「なんだかしんどい」という訴えも「不定愁訴」と一蹴していました。
実際、ほんの2週間前には胃カメラ検査までしてもらい、全く問題がありませんでした。
敬老の日以降もかかりつけ医に診てもらっており、とりあえず利尿剤で様子見とのことだったのです。
でも今日のこの様子は只事ではありません。
これはやっぱりどこかで水を飲んでいるに違いない、と思いました。
CT検査や血液検査を行うと、「低カリウム血症」だと分かりました。
今回の救急外来は、施設長さんにずっと付き添っていただきました。
診察室の前で、母の頭なでたりまぶたを触ってみたり温かい手が自然に母の身体に触れていました。
その様子を見ていて、私が母に触れたのはいつのことだっただろうか...冷たい娘だよなぁ、と思いました。
日ごろ施設に預けっぱなしで、「元気にやってくれていればそれでいい」と思っていました。
私は母の介護のキーパーソンにあたるのですが、こんな大事な時に全くの役立たずでした。
医師が母について問診するのですが、私は何一つ答えられなかったのです。
初めて母を診る医師に対し、介護記録を手に持ちながらここに至るまでのことを詳細に伝えてくれる施設長さんの姿に、その横で感動すら覚えました。
面倒を見るだけでも大変なのに、こんなに細かく日誌をつけているなんて、ほんとうにスゴイと思いました。
ご飯が食べにくくなった母に、どうすれば食べてくれるかを考え、時間をかけてでも食べるように一口ずつ食べさせてくれていたようです。
母は、施設で育てている植物への水やりを好んでやっていました。
そういった楽しみを更に楽しんでもらえるように、母の日にはアジサイを贈りました。
上手に育てれば翌年も花が咲くからです。
ペットボトルに水を汲み、車いすを漕いで植木に水をあげる。
きっとそのぺットボトルの水を飲んでいたのでしょう。
調べてみると、7月頃からカリウムの数値は落ちていました。
夏は普通の人でも喉は乾くもの。
多飲傾向の母なら更に喉は乾いたと思います。
母の部屋から500mlの空のペットボトルが4本出てきたことがあり、没収したこともあったようです。
その頃には体調が落ちてきたのでしょう、私が贈ったアジサイは母の部屋の窓から見える位置に地植えされていました。
ベッドで寝ころがっていても眺めることができる場所に植えて、「娘さんからもらったアジサイが大きくなっていくのって素敵よね」と言っては一緒に眺めていたそうです。
仕事とはいえ、数々の問題行動で周りを振り回した母を受け入れて関係性を築いてくれていたことに感謝の気持ちが込み上げてきました。
施設長さんは、コロナ禍に施設にウイルスを持ち込まないように自分だけじゃなく、家族にも行動を制限していたそうです。
自費で受けたPCR検査費用は10万円以上。
それもこれも、全部母たち入居者のためを思ってのことです。
母の入院が決まるまでの4時間近く、施設長さんには付き添っていただきました。
私が何不自由なくこうして仕事が出来るのも介護士さんたちがいるからだと改めて思いました。
しかも、温かい手で。
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