<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:58
プロフィール:地方都市で公務員をしている男性です。離れて暮らす実家によく電話をするのですが、なかなか面倒です。
実家を離れて、地方都市の公務員になって30年以上が過ぎました。
若いころからちょくちょく実家に電話を入れるようにしていましたが、数年前からこの電話が面倒になってきています。
原因は父(88歳)の念の入り過ぎる詐欺対策のせいです。
数年前のある日の電話はこんな感じです。
「もしもし、あ、父さん?」
「どちら様ですか?」
「何言ってるんだよ、父さんと言って電話するのは俺か兄貴しかいないだろ?」
「どちら様って伺っているんですよ」
そっけなく答える父に面倒だなあと思いながら、嫌みたっぷりに返しました。
「ウジと申します」
「......出身の中学校はどちらですか?」
「は? 何事だよ、一体」
「いいから、言えるでしょ? 本人なら」
いい加減にしてくれと思いつつ答えました。
「○○中だよ」
「おお、間違いないな、ウジさんだ。元気か」
一転していつもの調子に代わりました。
「詐欺対策だよ、オレオレ詐欺ってやつ? ご近所にも最近かかってきてなあ」
「そういうことなら、そう言えばいいだろ。なんか問題でも起きてるのかと思ったよ」
「まあまあ、そういう時代ってことだ。今後もいろいろ確かめるからな」
その後も電話するとしばらくは「母親の出身地はどこ?」など質問攻めでした。
しばらくすると父から一冊の本が送られてきました。
「なんだ? これ」と思っていましたが、電話をしてその意味が分かりました。
「45ページの最初の文字は?」
要するに暗号用の本というわけです。
しかも念入りに毎月一冊ずつ新しい本を送ってきました。
ただこの方法は、途中から止めてしまいました。
父の方がどれが今月の本か分からなくなってしまったからです。
最近になって実家に電話をすると留守電になっていました。
やむを得ず「えっと、ウジです。特に用事ってわけでもないけどね」と留守録をして切りました。1分と経たずに電話が鳴りました。
「やあ、ウジさん、詐欺対策にこれが有効だってテレビで見てな......」
留守電で受けて、改めて相手にこちらからかければ騙されることはないというわけです。
「これさあ、お互いに留守電にし合って、同じ方法でやろうとしたらいつまでもつながらないんじゃない?」
「......なるほど、それはあり得るな。改善の余地はあるってことだな」
父は電話口の向こうで考え込んでしまいました。
まあ、慎重なのは悪いことではないか、と思っていましたが、つい先日のことです。
この日も留守電で、まあいつものことかと思い、留守録を入れて切ろうとしたときのことです。
「はい、もしもし」
「ああ、相手の声を聞いて出るようにしたんだね」
「俺の誕生日はいつだ? 留守電プラス合言葉だ。万全だろうが」
電話口の向こうで得意げに語る父に、さすがに苦笑するしかありませんでした。
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