「それ本当?」と思うような伝説が、なぜ長年大切にされてきたのか?そこに込められた意味を考えることが大切
――近藤丸さんは、以前仏教の学校(中学・高校)で勤務され、この漫画を描き始めたのもその頃の経験が影響しているそうですね。「天上天下唯我独尊」のエピソードも、実際に行われた授業がベースになっているとお聞きしましたが...。
近藤丸さん(以下、近藤丸) はい。仏教の授業でお釈迦様の生涯について学ぶのですが、最初に学ぶのが生まれてすぐに7歩あゆみ、「天上天下唯我独尊」と叫んだという逸話です。もちろんこれは、歴史的な「事実」ではなく「伝説」です。しかし、仏教を伝えてきた人たちはこうした伝説を大事にしてきました。
――授業でこの話を伝えたとき、生徒の反応はいかがでしたか?
近藤丸 「あやしい」「胡散臭い」と言っていました。そこで私は、「そう、どこか胡散臭いよね。でもどうして仏教徒たちは、わざわざこんな歴史的事実とは思えない話を大事にしてきたのか? そこに込められた意味を考えることが大事なんだ。その事をこれから学ぼう」と話していました。そして、仏教の教科書や入門書に書かれている伝説の意味を、生徒たちに伝えていたんです。
――私たちにもこの伝説の意味を教えていただきたいです。
近藤丸 まず「7歩」には、六道の迷いを超えるという意味が含まれています。人間は、六道の苦しみの世界を迷いの心で作り出していると考えます。六道については、いずれ漫画『ヤンキーと住職』の中でも触れたいです。お釈迦様は迷いの世界「六道」を、一歩出た人なのですね。これは、何も生まれてすぐに悟りを開いたという意味ではなく、後に悟りを開き大切な事に目覚めたということを、誕生に引き寄せた表現だと解釈されます。
――誕生後に言葉を叫んだことだけでなく、「7歩歩んでから言った」ことに大きな意味があったとは、教えていただかないと分からないですね。