川内:えっ、何か失礼なことでも?
柴田:いえいえ(笑) 。「親に介護が必要になったからって、離れていた親子がいきなり一緒に住んでもなかなかうまくいきませんよ」って。
川内:喧嘩になっちゃうから。
柴田:そう。それを聞いて、ああ、そう言えば、私も実家に3日いたら母と喧嘩になるな、と(笑)。それで、何となく腑(ふ)に落ちたというか、仲の良い親子でも、ある程度の距離感って必要なのかもしれないな、と思えるようになって。
それからですよ、遠距離介護に対して割り切って考えられるようになったのは。お任せはお任せなんですけど、自分は自分なりに、介護をしてくださるプロの方々と母の間に入って双方のコミュニケーションをうまくとれるようにするとか、離れていてもできることはあるし、それを精一杯やればいいんじゃないかって。
川内:とても重要なご指摘で、遠距離介護の核心をついていると思います。一人暮らしの親が要介護になったとき、「一人にしておけない」と子どもが心配するのは当然ですから、一緒に暮らすという選択はもちろん否定しません。
ですが一方で、柴田さんがそうしたように、介護のプロやご近所さんなどの力を借りながら、親が住み慣れた土地で暮らし続けることで、お互いの生活を大切に、程よい距離を保ちながらサポートするという選択もあるわけです。
柴田:そういう選択肢があることを知るだけでも大きいですよね。
川内:おっしゃる通りで、遠距離介護もありだと知らなければ、一緒に暮らして親の面倒を見なきゃと自分を追い込んでしまいます。
柴田:親のこととはいえ、それはやっぱり負担ですよ。多くの場合、子どもにも家庭があるわけですから。
川内:そもそも親と離れて暮らしている場合、実家にはそう頻繁(ひんぱん)に帰れませんよね。交通費も大変ですから、年に一、二度、お盆やお正月に帰るだけという方が多いんじゃないでしょうか。そういう方が、親に介護が必要になったからといって、それまでの適度な距離感を飛び越えて、いきなり濃密な関係、つまり、自宅に引き取ったり、実家に帰って一緒に住んだりして、「私が自分で親の面倒を見るんだ」と頑張ってしまうと、お互いにイライラが募って、子どもの思いとは裏腹に親子関係が崩れてしまうことが多いんです。「親孝行の罠(わな)」と言います。
柴田:親孝行のつもりが裏目に出ちゃうこともあるんですね。