柴田理恵「他人様に介護をお任せするのに、迷いがあった」介護のプロと語る「遠距離介護の始め方」

柴田理恵「他人様に介護をお任せするのに、迷いがあった」介護のプロと語る「遠距離介護の始め方」 柴田理恵さん、川内潤さん
撮影:津田聡

川内:えっ、何か失礼なことでも?

柴田:いえいえ(笑) 。「親に介護が必要になったからって、離れていた親子がいきなり一緒に住んでもなかなかうまくいきませんよ」って。

川内:喧嘩になっちゃうから。

柴田:そう。それを聞いて、ああ、そう言えば、私も実家に3日いたら母と喧嘩になるな、と(笑)。それで、何となく腑(ふ)に落ちたというか、仲の良い親子でも、ある程度の距離感って必要なのかもしれないな、と思えるようになって。
それからですよ、遠距離介護に対して割り切って考えられるようになったのは。お任せはお任せなんですけど、自分は自分なりに、介護をしてくださるプロの方々と母の間に入って双方のコミュニケーションをうまくとれるようにするとか、離れていてもできることはあるし、それを精一杯やればいいんじゃないかって。

川内:とても重要なご指摘で、遠距離介護の核心をついていると思います。一人暮らしの親が要介護になったとき、「一人にしておけない」と子どもが心配するのは当然ですから、一緒に暮らすという選択はもちろん否定しません。
ですが一方で、柴田さんがそうしたように、介護のプロやご近所さんなどの力を借りながら、親が住み慣れた土地で暮らし続けることで、お互いの生活を大切に、程よい距離を保ちながらサポートするという選択もあるわけです。

柴田:そういう選択肢があることを知るだけでも大きいですよね。

川内:おっしゃる通りで、遠距離介護もありだと知らなければ、一緒に暮らして親の面倒を見なきゃと自分を追い込んでしまいます。

柴田:親のこととはいえ、それはやっぱり負担ですよ。多くの場合、子どもにも家庭があるわけですから。

川内:そもそも親と離れて暮らしている場合、実家にはそう頻繁(ひんぱん)に帰れませんよね。交通費も大変ですから、年に一、二度、お盆やお正月に帰るだけという方が多いんじゃないでしょうか。そういう方が、親に介護が必要になったからといって、それまでの適度な距離感を飛び越えて、いきなり濃密な関係、つまり、自宅に引き取ったり、実家に帰って一緒に住んだりして、「私が自分で親の面倒を見るんだ」と頑張ってしまうと、お互いにイライラが募って、子どもの思いとは裏腹に親子関係が崩れてしまうことが多いんです。「親孝行の罠(わな)」と言います。

柴田:親孝行のつもりが裏目に出ちゃうこともあるんですね。

 

NPO法人となりのかいご代表理事 代表理事 川内潤さん
1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。14年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。厚労省「令和2年度仕事と介護の両立支援カリキュラム事業」委員、厚労省「令和4・5年中小企業育児・介護休業等推進支援事業」検討委員。介護を理由に家族の関係が崩れてしまうことなく最期までその人らしく自然に過ごせる社会を目指し、日々奮闘中。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)、共著に『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)などがある。


柴田理恵(しばた・りえ)
女優。1959年、富山県に生まれる。1984年に劇団「ワハハ本舗」を旗揚げ。舞台やドラマ、映画など女優として幅広い作品に出演しながら、バラエティ番組で見せる豪快でチャーミングな喜怒哀楽ぶりや、優しさにあふれる人柄で老若男女を問わず人気を集めている。
また、こうした活躍の裏で2017年に母が倒れてからは、富山に住む母を東京から介護する「遠距離介護」を開始。近年は自身の体験をメディアでも発信している。
著書には、『柴田理恵のきもの好日』(平凡社)、『台風かあちゃん――いつまでもあると思うな親とカネ』(潮出版社)などのほか、絵本に『おかあさんありがとう』(ニコモ)がある。

※本記事は柴田理恵著の書籍『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』(祥伝社)から一部抜粋・編集しました。

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