【ブギウギ】戦時中をたっぷり描く特異な朝ドラ。何もかも失った人々に、ヒロインの歌は何を与えるか

【先週】朝ドラにおける「笑い」の難しさを痛感...あえて「暗く描かない」展開で思い出されるかつての朝ドラ

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「歌の力」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ブギウギ】戦時中をたっぷり描く特異な朝ドラ。何もかも失った人々に、ヒロインの歌は何を与えるか pixta_45106717_M.jpg

趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第13週「今がいっちゃん幸せや」、第14週「戦争とうた」が年末年始をまたいで放送された。

本作の特異な点は、戦争にたっぷりの尺をとっていること。何より戦時下の緊迫感や悲惨な暮らしではなく、「戦争とうた」をあくまで主軸として描くことに徹していること。

スズ子(趣里)は結核が再発した愛助(水上恒司)をつきっきりで看病する。坂口(黒田有)の計らいにより、スズ子は三鷹の家で愛助の看病に専念。活動できなかった楽団も、トミ(小雪)の許しを得て、マネージャーに山下(近藤芳正)を迎え、日本各地を慰問でまわることに。

愛助は順調に回復し、幸せな生活を送っていた二人だが、東京都心に空襲が起こる。慰問から戻ったスズ子は、一面瓦礫の光景に言葉を失うが、愛助と無事再会。スズ子は地方に行くことで、愛助と離れることを不安に感じるようになるが、そんな背中を押したのが、愛助だ。

空襲警報で防空壕に行ったスズ子らは、泣き止まない赤子を懸命にあやす母が、年配の男から出て行けと言われる場面に遭遇。そこでスズ子が「アイレ可愛や」を歌うと、ギスギスした空気が緩み、周りは手拍子をして歌に聴き入り、いつしか赤子も泣き止んでいた。その光景を見た愛助はスズ子が歌うべきだと伝える。

一方、上海で新たな音楽を模索する羽鳥善一(草彅剛)に、軍から依頼が。それを利用し、羽鳥は李香蘭(昆夏美)らと国際的な音楽会を開こうと画策する。羽鳥は黎錦光(浩歌)が作曲した「夜来香」に敵性音楽として日本では禁止されている米国の「ブギ」を取り入れ、「夜来香ラプソディ」にアレンジ。音楽が誰にも縛られない自由なものであることを証明しようと熱弁。音楽会は大成功をおさめる。

また、鹿児島の海軍基地を訪れたりつ子(菊地凛子)は、特攻隊員のために歌ってほしいと要請を受ける。特攻隊員がリクエストしたのは「別れのブルース」だった。

軍歌を歌えと言った上官はあえて席を外し、そのリクエストを黙認、涙を流す。一方、軍歌を拒否したりつ子が、若者たちに一瞬の「平時」を見せた上で、彼らの覚悟を後押しし、自身の歌で死地に送るという皮肉。

モデルとなった淡谷のり子の史実では、歌の途中で出撃となった兵士たちが1人、また1人と敬礼して去って行ったそうだが、本作では「思い残すことはありません」「元気でいきます」と、兵士たちに語らせている。

この「演出」「演出」したシーンとセリフが少々引っかかかり、史実のまま描写した方が、より残酷な印象を与える気がした。しかし、わざわざ語らせたのは、おそらく人々が自身の感情にフタをしていた時代の異様さを強調するため。そして、スズ子の歌の力につなげる意味もあったのだろう。

スズ子は富山の慰問で、旅館の女中・静枝(曽我廼家いろは)と知り合う。夫を戦争で亡くしている静枝を、弟を戦争で亡くした自分と重ねたスズ子は、静枝のために歌うことを決意。「大空の弟」を聴いた後、静枝の表情に温度が戻る。

夫の戦死を「悲しくない」「誇り」と怒りが凍りついた顔で語っていた静枝が、夫からの手紙と文字をめぐる夫婦のやり取りを思い出し、笑うのだった。

ここで思い出されるのが、13週。防空壕でのギスギスした空気を変えたスズ子に愛助が語った言葉だ。
「さすが福来スズ子や。みんなスズ子さんの歌で正気に戻っていく」
「こんなときやからこそ、スズ子さんに歌てほしい。戦争の陰で懸命に生きる銃後の人にとっても、福来スズ子の歌は生きる糧、生きる希望になるんやから」

ドラマではまもなく終戦となるが、何もかも失った人々に、はたしてスズ子の歌は、エンタメは何を与えるのだろうか。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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