【先週】ブギウギ】既視感があると思ったら...朝ドラの「わかりやすさ」を象徴する「記号的キャラ」に賛否
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「朝ドラにおける『笑い』」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第12週「あなたのスズ子」が放送された。
今週はベタてんこ盛りの上に、『ちむどんどん』風味がチラ見えする展開だった。
体が弱いために戦争に行かない罪悪感を抱く愛助(水上恒司)は、スズ子(趣里)と恋愛して良いのか悩み、それを聞いたスズ子も自分の気持ちを伝え、愛助の答えを尊重すると伝える。
愛助は母・トミ(小雪)からの手紙がきっかけで決意し、改めてスズ子に告白。二人は付き合うことになり、楽団のメンバーたちも祝福する。
一方、「福来スズ子とその楽団」の地方巡業は続くが、収支は厳しくなるばかり。そんな中、マネージャー・五木(村上新悟)と村山興業東京支社長の坂口(黒田有)が密会。坂口は村山興業の跡取りになる愛助とスズ子を別れさせようと、五木にカネを渡す。
ある日、五木のもとにナツ(香川ハル)が来る。スズ子が関係を問い質すと、五木はナツに金を工面していることを打ち明け、翌日、置手紙と坂口から受け取った手切れ金の一部だけを残し、姿をくらましてしまう。スズ子らは後任のマネージャーを探すが、愛助から村山興業を退社した山下(近藤芳正)が紹介される。
しかし、山下のことやスズ子との交際はトミには筒抜けで、スズ子と愛助はトミに呼び出され、対面することに。そこでトミは「村山興業の跡継ぎになる人間だす。そのことを重々ご理解下さい」「ほなら、話しは終わり出す」「あとはよう2人で話しなはれ」だけで言い、去っていく。
これはトミから別れろという警告だとスズ子は理解するが、愛助は改めてスズ子に自身の気持ちを伝える。そして、東京にも空襲警報が鳴り響く中、愛助の体調に異変が起こる。
先週に続いて今週も際立ったのは、小夜(富田望生)の器用さ頼みの顔芸満載のコテコテ演技。制作統括は、戦争をはじめ、苦難の多いスズ子の人生を暗く描かないという狙いを各種インタビューで語っているが、「明るさ」「面白さ」にはいろいろあり、少なくとも自分は作品に寄り添いたいと思いつつも、笑いどころがいまひとつわからず、特にここ2週間は暗中模索の状態だ。
財政難でどこも苦しい状況で、スズ子と愛助の恋愛を楽団員たちがはやし立て、浮かれるのは、厳しい現実から目を逸らすための現実逃避なのか。坂口×五木の「密談」は、時代劇の悪代官と越後谷の悪企みのようなトーンで交わされるが、たぶんここも笑うところなのだろう。小夜や五木の描写から『ちむどんどん』を思い出す人がいたのも、頷ける。
これまで各地に女がいるなどと嘯いていた五木だが、そして他の女と全て別れたとも言っているが、実際のところ、たいした収入も得ておらず(実際、興業のギャラが芋という描写もあったくらいだから)、そのほとんどをナツ母子に貢いでいたのではないか。しかも、五木が語ったナツの身の上話は相当に胡散臭く、取り急ぎ家賃を五木にせびりに来ていたことから見ても、そこにはいろいろな嘘がありそうだ。しかし、そうした厳しい実情にはあえて踏み込まないのが、本作のスタンスなのだろう。
その一方、『ちむどんどん』で義母を演じた鈴木保奈美とキャラが相当近く見えるのが、トミの母親像。そして、空襲中のトイレ、しかも「大」かという愛助の問いと、ホッとしてからの愛助の爆笑。からのキスと吐血。
トイレのアイディアは、脚本家・足立紳氏からのもので、これまでとは違う戦争の描き方をしたかったからと各種インタビューで制作統括が語っている。実際、トイレ中に空襲警報が鳴ることは当然あったろうが、リアリティ云々ではなく、そこに「明るさ」「笑い」の意図があるのだとしたら、笑いどころがますます迷子になってしまいそう。
朝ドラにおける「笑い」が成功していた作品は実に少ないことを改めて思い出す12週だった。