「所有者不明の土地」に関わる相続の新制度。放置しておくと思わぬトラブルに発展する可能性も!

現在、日本の国土の2割以上の土地が「所有者不明土地」となっていて、例えば、隣地や空き地からの木の枝が自分の家の敷地に入ってきたときのトラブル解決の障壁となっています。この「所有者不明土地」については、今年の春から法制度が変わり始めるため、注意が必要です。今回は、法務省 民事局 民事第二課長の藤田正人(ふじた・まさと)さんに、「所有者不明土地にかかわる『相続の新制度』」についてお聞きしました。

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日本ではいま、「所有者不明土地」が増えています。

所有者不明といっても、持ち主が分からないだけではなく、持ち主が分かっていても連絡がつかない、あるいはすでに亡くなっている人が所有者のまま、というような土地のことも指します。

すでに日本の国土の2割以上もの土地がこの「所有者不明土地」になっていて、災害からの復旧などの際に土地の所有者と連絡が取れず作業が進まないといった問題につながっています。

法務省の藤田正人さんは「このような問題を解決するために法律が改正され、この4月から新しい制度が順次始まります」と話します。

どのように変わるのでしょうか。

藤田さんは「遺産相続時に登記の変更を行う義務がなかったことが『所有者不明土地』増加の大きな原因なのですが、来年4月より相続登記が義務化されます」と話します。

具体的に変わる点は、下の通りです。


新制度のポイント

2024年4月1日開始 相続登記の義務化

これまでの問題点

・土地や建物といった不動産の相続を行う際、これまでは法務局で所有者変更などの相続登記を行う必要がなかった。

・また、相続登記を行うためには手間と費用がかかるため、相続登記をしないという選択もできた。

変更点

・不動産の相続を知った時点から3年以内に相続登記を行うことが義務付けられた。

・2024年3月31日までに相続した場合は、制度開始から3年後の2027年3月31日までに相続登記を行う義務がある。

・正当な理由なく相続登記しなかった場合は、10万円以下の過料(※) の対象になる。

※「過料」は行政上の罰。金額を納付する必要はあるが、刑事罰とは異なり前科にはならない。

2023年4月27日開始 不要な土地を国へ帰属させる制度

これまでの問題点

・相続した土地が遠方にあり、利用する予定がない場合などには、管理されず放置されてしまっていた。

・周辺の土地に迷惑がかかるため管理が必要だが、負担が大きかった。

変更点

・相続したけれど不要な土地は、国が引き取ってくれる。

・ただし、建物などが残っていないことや、土壌汚染がないことなどの条件を満たす必要がある。

・引き取ってもらう際には、土地の状況(宅地、田畑、森林など)に応じて負担金(※)が発生する。

※負担金の額は、面積にかかわらず20万円が基本。例外として、一部の宅地、農地、森林などは面積に応じて計算します。


さらに、「引っ越しの際に登記簿に記された所有者の住所を変更することを忘れてしまうというケースも多く、これを防ぐために引っ越し時に登記上の住所を変更することも2026年4月までに義務化されます」と、藤田さん。

上記にあるように、登記を怠るとペナルティ(過料)が科される可能性があるため、注意が必要です。

また、「所有者不明土地」は管理されずに放置されたまま空き地になっていることも多く、ごみや虫などが大量発生し近隣住民の迷惑になることも多いそう。

「『相続したけど管理できないし手放したい』という土地を国が引き取る制度も、この4月から始まります」(藤田さん)。

ただし、国に引き取ってもらうには一定の条件を満たし、さらに負担金を支払う必要があります。

「よく誤解されますが、国からお金をもらえるのではなく、国に払う仕組みですので、ご注意ください」。

土地を相続しない人も無関係ではありません。

自宅の周囲に「所有者不明土地」の空き地がある場合、これまでトラブルの元になることがありました。

「例えば自宅横の空き地に生えている木の枝が敷地内まで伸びてきたとき、その空き地が所有者不明だと、勝手に切ることもできずに途方に暮れる、ということもこれまではありました」と、藤田さん。

そのトラブルも、下の表のように容易に解決できるようになります。


新制度を利用して近隣トラブルを防ごう

2023年4月1日開始 隣の庭や空き地の木の枝が敷地に入ってきた場合の対処法

これまで

・隣の空き地が管理されず放置されていて、木の枝が自宅の庭に入り込んできた。所有者に切ってほしいと伝えたが、普段から折り合いが悪いせいか対応してくれない。あるいは所有者を探して相談しようとしたが、連絡がつかない。

・地元の自治体に相談したが、「所有者と話し合ってください」としか言ってもらえない。

・弁護士に相談しても、「勝手に切ると犯罪になる可能性がありますよ」と言われ、身動きが取れない。

・どうしても切りたい場合は、裁判所などを通じて手続きを取る必要があったため、時間も費用も必要だった。

これから可能になる対応

・一定の手続きを踏めば自ら切ってもよくなる。

・ただし、土地の所有者に「枝が邪魔なので切ってほしい」と通知する手続きが必要。

・手続きの手順としては、所有者に直接通告するか所有者の住所に郵送などで通知し、2週間ほど待ってみても対応してもらえなければ自分で切ってもよい、ということになる。

・所有者不明の場合も、自ら切ってよい。

・切除費用は土地の所有者に請求できるが、裁判手続きが必要。

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【道路に伸びた木の枝はどうなる?】
この新制度を利用すれば、国や自治体が管理する道路の脇にある「所有者不明土地」から伸びて通行の邪魔になっている木の枝も、時間をかけずに処分することができるようになります。

これまでは国や自治体でも上で述べている事例と同様に、「土地の所有者が見つからない場合は時間をかけて探し出すか、裁判所を通して解決するしかなかったのです」と、藤田さん。


「この制度は、隣家の庭の枝が伸びてきたけど仲が悪くて対応してもらえないという場合にも有効です。直接もしくは内容証明郵便など証拠が残る形で枝を切るように通知し、2週間ほど待っても対応してもらえなければ自分で業者を手配して切れるのです」。

藤田さんは「今回の法律改正で、相続登記手続きを簡易にできたり、所有している不動産の一覧を証明書として発行してもらえたりする制度も始まります。詳しくは『法務省 所有者不明』とインターネットで検索するか、もしくは最寄りの法務局にご相談ください」と呼びかけています。

「所有者不明土地」に関連して思わぬペナルティや費用の請求を受けないためにも、そして近隣とのトラブルを防ぐためにも、新制度についての理解を深めていきたいですね。

取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ

 

<教えてくれた人>

法務省 民事局 民事第二課長
藤田正人(ふじた・まさと)さん

1974年大阪府生まれ、京都府育ち。2000年に裁判官になり、以後、東京、大阪、福岡で民事事件などを担当し、16年から法務省に。法曹養成問題などを担当した後、21年より現職。

この記事は『毎日が発見』2023年4月号に掲載の情報です。
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