【どうする家康】巨大化した家康の「本当の姿」とは...かつての「兄」に見せた涙と、第1話からの見事な伏線回収

【前回】茶々(北川景子)が真のラスボスか? まだ「青い」石田三成を裏で煽動する「女狐」茶々に、「狸」家康は...

日本史上の人物の波乱万丈な生涯を描くNHK大河ドラマ。今年は、松本潤さんが戦国乱世に終止符を打った天下人・徳川家康を演じています。毎日が発見ネットでは、エンタメライター・太田サトルさんに毎月の放送を振り返っていただく連載をお届けしています。今月は「本当の家康」というテーマでお届けします。

※本記事にはネタバレが含まれています。

【どうする家康】巨大化した家康の「本当の姿」とは...かつての「兄」に見せた涙と、第1話からの見事な伏線回収 morita_11@.jpg

イラスト/森田 伸

松本潤主演のNHK大河ドラマ「どうする家康」。本作は戦国の世を終わらせ江戸幕府を築いた徳川家康の生涯を、古沢良太が新たな視点で描く作品だ。本記事では11月放送分を振り返る。

「関ヶ原は、まだ終わっておらんーー」

平八郎(山田裕貴)と小平太(杉野遥亮)に対し、家康はこう言った。

天下分け目の関ヶ原の戦いに見事勝利、慶長8(1603)年に征夷大将軍となり徳川幕府を開闢、かつて深く愛した正妻・瀬名が思い描いた、"戦なき世"が、ついに訪れたはずではなかったのか。

しかしそれは「かりそめの太平」。決して消えることのない戦乱の火種は、関ヶ原以降も、再び激しく燃え上がるその時をじっと待ち続けていた。家康は、関ヶ原は豊臣方が勝手に仲違いしたり裏切ったりしたことで崩壊してしまっただけのことで、秀吉の血を引く秀頼の成長とともにやがてひとつとなり、再び脅威の存在となると見ていた。戦はまだ終わらない。

関ヶ原で敗れ捉えられた三成は、
「乱世を生き延びるあなたこそ、戦乱を求むる者」
家康にこう言ったあと、
「戦なき世など為せぬ!」
と最後に断言した。

避けられない運命の、豊臣勢との衝突。どうする?
勝利を収めたはずなのに、戦から逃れられない宿命が老いた家康を苦悩させる。

そんな家康のもとに現れたのが、今川宗誾氏真)だった。第1話から登場し、今川義元(野村萬斎)のもとで兄弟のように育てられた二人。のちに対立し、敗れた氏真が言った「そなたはまだ降りるな。そこでまだまだ苦しめ」という言葉の呪縛だろうか、家康はその後勝利者となったのちも、なお苦悩し続ける人生を送ることとなった。溝端淳平演じる氏真、久しぶりの登場。大きな話題を集めた見事な老けメイクで向かい合う二人が、その見た目とは裏腹に、血気盛んなあの頃と変わらない空気に戻ったように見える。

「これほどまで長く降りられぬことになろうとはな」
氏真が自身のかつての言葉を振り返る。

「戦は無くならん。わしの生涯はずっと、死ぬまで......死ぬまで戦をし続けて......」
家康の頬をつたう涙。家臣の前でも見せられない姿だ。そんな「弟」を、「兄」は力強く抱きしめ言った。
「家康よ、弟よ。弱音を吐きたいときは、この兄がすべて聞いてやる。そのために来た」

瀬名の求めた理想の国をつくるため、家臣たちのため、虎となり、やがて狸と化し、神話の怪物「オロチ」にまで例えられるほどまでに巨大化した家康。しかしそれは、変化したのではなく、見せかけ続けただけだった。それを氏真はよく分かっていたのだろう。あたたかい口調でこう諭した。
「本当のお主に戻れる日も、きっと来る」

"本当のお主"、そう、戦乱の世を勝ち抜き天下をとった家康は、ずっと"白兎"のままであった。白兎を隠し、戦ってきた。けれど本当は白兎のまま、変わることはなかった。そのことを再確認した瞬間、氏真の言葉からの呪縛、瀬名との約束の呪縛から、家康は解放されたようにも見えた。呪縛ではなく、本当の自分として世を作りあげ、次代につないでいく。それこそが家康がやるべきこと、そのためにもう一度戦う、そう決心したように感じられた。

そんな家康の前で、確かな存在感を放つ秀頼(作間龍斗)と渡り歩くことに自信を持てず、父のような才能も受け継げなかったと弱音を吐く秀忠。息子に、家康は言う。
「そなたはな、わしの才をよく受け継いでおる」
「どこが?」
「弱いところじゃ」

そして自身の弱さを素直に認められるところだと家康は説明した。これこそが、瀬名が、家臣たちが、そして視聴者が愛してきた「どうする」版家康の一番の魅力だ。

氏真と再会し、戻るべき本当の自分を見つめ直すことができたからこそ、息子にその最大の武器が継承されたことに気づけたのかもしれない。

「戦を求める者たちに天下を渡すな」
こう力強く説き、そして、「王道と覇道とは?」と秀忠に問いただした家康。王道と覇道! 第1話で今川義元に問われ、家康が答えていたやりとりがここに蘇った。氏真の再登場とともに、見事な伏線回収である。武をもって治める覇道は、徳をもって治める王道には及ばぬもの。そう答える秀忠に、父・家康は言った。
「そなたこそがそれを成す者と信じておる。わしの志を受け継いでくれ」

そんななか、豊臣が大仏を再建した方広寺の鐘の銘。そこに刻まれたのは、「家康」の名前を分断し、豊臣が"君"であると読み取れる、「国家安康」「君臣豊楽」の文言。

これを見たときに「面白いのう」と言いながら浮かべた、好戦的な茶々(北川景子)の冷たい笑み。そしてクールな才人・秀頼が、豊臣の復権をもくろむ。対するは、自らの「弱さ」を知る白兎の父子。近づく最終決戦・大坂の陣。戦なき世を完成させるために、徳を持って治める王道のために、もう一度家康は戦いの舞台に立つ。最後の戦いの果てに、本当の自分に戻ることはできるのか。どうする。

文/太田サトル
 

太田サトル
ライター。週刊誌やウェブサイトで、エンタメ関係のコラムやインタビューを中心に執筆。

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