毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「上品で上質な15分間」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】サブタイトル「ユウガオ」に込められた意味が響く...朝ドラ視聴者が心を一つにした第11週
長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第12週「マルバマンネングサ」が放送された。
万太郎(神木)と寿恵子(浜辺美波)がいよいよ夫婦になる今週、双方の家に挨拶する展開が実に上品に描かれた。
ドレス姿の寿恵子(浜辺美波)が十徳長屋にやって来たことから、長屋は大騒ぎ。
実際に草だらけの万太郎の住処を見た寿恵子は、万太郎と生きることが「とてつもなく大変」と実感する。万太郎は、寿恵子が自分に必要だということと「会うと嬉しい」気持ちを素直に伝え、それを万太郎の都合だとツッコむ丈之助(山脇辰哉)の正論に続き、美しいのは、寿恵子が自分自身の意思で「今日を生きるだけでひたすら大冒険」「性根を据えなきゃ」と万太郎と生きる覚悟を決めたこと。そして万太郎が自分の使命と信じる「植物図鑑」を必ず全部完成させることを約束させるのだ。天才とそれを支え、犠牲になる妻ではなく、共通の目標を持った二人の「冒険」の始まりである。
そこから万太郎は寿恵子の母・マツ(牧瀬里穂)に挨拶に行くが、お金のことを心配するマツに、図鑑を「八犬伝方式」の"分冊"で出版、売りながら生計を立てるという二人の計画を伝える。その後は、寿恵子による「夜通し」の布教活動"八犬伝全巻読破"に。「夫婦」であり「同志」でもある二人の関係性が見えてきた瞬間だ。
次は万太郎の故郷・佐川の峰屋への挨拶だが、さりげなく「半年後、繁忙期を避け、甑倒しに合わせて」帰省する配慮が描かれるのが、やっぱり上品。そしてこの帰省は、竹雄が万太郎の助手の役割を寿恵子に引き継ぐ旅でもあった。
しかし、万太郎たちが峰屋に到着すると、蔵の前で綾(佐久間由衣)が役人に厳しく詰め寄られていた。綾は峰屋の主として、「甑倒し」が半年間故郷を離れ、家族とも別れて峰屋での酒造りに励む蔵人たちを労う大切な日だと言い、日を改めてくれるように頼みこむ。そこに万太郎らが登場。役人を説得し、一部始終を見守っていたご近所の人達の応援もあり、どうにかその場は難を逃れることに。
万太郎が現れた瞬間にホッとした表情を見せる綾に、背負ってきたモノの重さを感じる。そしてまた、万太郎の帰りに沸き、寿恵子を歓迎する峰屋の使用人たちの温かさ、自然に零れる笑顔もまた、綾が必死に守って来たモノだろう。
酒屋の厳しい現状を目の当たりにした万太郎は、さらにタキ(松坂慶子)の病気を初めて知る。役人相手に頼もしく振る舞った万太郎が、タキの病状を知ると急に狼狽え、子どもの頃のままの口調で語りかけるのが愛おしい。
そこでタキは平静を装い、寿恵子に百人一首の勝負を挑む。しかし、タキの体調を気遣う寿恵子、さらに花を絶やしたことのないタキが活けていないことでタキの体調を察する万太郎と、「病状」や「気遣い」を直接的な説明でなく描くのが実に巧みだ。タキは寿恵子に「おまさんでほんまに嬉しい」と言い、万太郎のことをよろしくと頼む。
そして甑倒しの宴会中、一人抜けた綾は、峰屋の行く末のことを考えていた。そんな綾に竹雄は、自分がもう万太郎の従者ではないと知らせ、綾を一人にはしないと伝える。大好きな万太郎との別れの覚悟と、もう一人大好きな綾を一人にしないという決意――今週の裏の主役は竹雄だ。しかし、綾はそんな竹雄の告白に対し、「井上竹雄」「呼んでみただけ」と嬉しさを隠しつつ、「酔いがさめたき」と涼しい顔で宴会に戻り、言う。
「酒~! 峰の月持ってきいや~!」
グッとくるのは、そんな綾に蔵人も使用人も誰一人驚く風もなく、ごく自然に笑顔で盛り上がること。万太郎がいない間、綾と使用人、蔵人たちの間ではしっかり関係性が積み上げられ、綾が名実ともに当主になっていることがうかがえるスマートで良い場面だ。
そして、翌日、タキは医師の鉄寛(綱島郷太郎)に病気を治して欲しいと頼み込む。もう十分生きたと思っていたタキの中に芽生えた、万太郎の子を抱きたいという「欲」。それは峰屋を綾に託し、自分自身のために初めて抱いた欲だった。鉄寛は難しいと頭を下げるが、願いが一番のクスリであると励まし、万太郎に東京に戻らずそばにいて欲しいと伝えてはと提案する。奇しくもその頃、寿恵子はそんな思いを察するように、佐川で暮らしても良いと万太郎に伝えていた。
しかし、そこに手紙が。ロシアのマキシモヴィッチ博士が、万太郎が送った標本の中からマルバマンネングサを新種と認めたという知らせだったのだ。喜ぶ万太郎に、タキは自分の願いを押さえ、早く祝言をあげて東京に戻るよう背中を押す。
嬉しくも切ない展開で際立ったのは、本作の魅力を一貫して支えている脚本・演出・役者陣が醸し出す「品」。わかりやすいドタバタや説明、刺激的な展開ではなく、作り手から視聴者への信頼を感じる、上品で上質な15分の使い方に唸らされる日々だ。