【らんまん】「男性性」の象徴・高藤にモヤる...女性脚本家ならではの「ジェンダー問題」の描き方

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ジェンダー問題の描き方」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】田邊教授(要潤)は味方か...?登場人物の「多面性」を植物になぞらえて描く「巧みな構成」

【らんまん】「男性性」の象徴・高藤にモヤる...女性脚本家ならではの「ジェンダー問題」の描き方 pixta_2032336_S.jpg

長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第9週「ヒルムシロ」が放送された。本作は、明治の世を天真らんまんに駆け抜けた高知出身の植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の人生をモデルにしたオリジナルストーリー。

対象物は異なるものの、「知らない世界を見たい」思いで共鳴し合う寿恵子(浜辺美波)と万太郎(神木)。しかし、一見ワクワクする展開ながら、寿恵子の話にはモヤモヤを禁じ得なかった先週。理由は、女の活躍を訴える叔母・みえ(宮澤エマ)がその手段として「玉の輿」を掲げる矛盾をはらんでいること。寿恵子の好奇心が大人の、それも"オッサン社会"に利用されようとしていること。そんなモヤモヤの輪郭が、今週明確に浮かび上がってくる。『らんまん』の女性脚本家ならではの現代に通じるジェンダーの問題の描き方が光る週だ。

植物雑誌創刊の許可を得たい万太郎は、田邊教授(要潤)に交渉する機会をうかがっていた。万太郎は田邊に植物の話をするが、全く響かず、退散しようとする中、田邊の机にあるバイオリンとシェイクスピアの原書に注目。そこから田邊の興味を引くべく、「音楽」「文学」談義に挑む。西洋の音楽は日本の音楽とは違うのかと聞き、東大落第生・丈之助(山脇辰哉)の熱弁を取り上げ、「友人がシェイクスピアいう作家は日本の勧善懲悪とは違うて、生身の人間そのまんまを描こうとしゆうと、そう申しちょりました」と言い、音楽との共通性について質問。さらに、植物画の描き方の陰影の違いにまで話を広げ、「西洋の芸術」に対する着眼点の鋭さから、西洋音楽の演奏会に同行させてもらうことに成功する。

そこから、演奏会で他者がいる場で交渉し、外堀から埋める形で「植物学会の学会誌」創刊の許可を得る。さらに、自分をスルーしたことに腹を立てる学会事務局長の大窪(今野浩喜)には、自分たちの監督と費用をお願いしたいと言い、「巻頭の言葉」を依頼。気をよくした大窪を掌で転がし、活版印刷での大量部数を約束させた。その交渉力、政治力は有能なビジネスマンのようだが、そもそも敷かれたレールから常に外れ続け、周りの意見に耳を傾け、取り入れながら、常に独自で道を切り拓いてきた万太郎の人生を思うと、何の不思議もない。

そして、本来は難題だったはずの植物雑誌創刊の交渉が、万太郎にとって知識も経験も皆無である未知の領域の難題「恋」が現れると、途端に身構えず、軽く乗り越えられてしまうところも痛快である。

一方、暗い気持ちにさせられるのが、菓子を届けに行ったところで、元薩摩藩士の実業家・高藤(伊礼彼方)に完全にロックオンされてしまった寿恵子の運命。

西洋のダンスを習い、教える立場になってほしいと言われるが、ドレスを着せられ、お人形のように演奏会の場に置かれる役割は完全にコンパニオンだ。

しかも、そんな中、演奏会で、田邊に同行した万太郎と遭遇。2人は目配せし、別の部屋に行き、話をしようとするが、万太郎は「綺麗じゃ」以外の言葉が見つからない。そこに高藤が現れ、万太郎を隠すために寿恵子は足が痛いと嘘をつくが、なんと高藤は突然寿恵子をお姫様抱っこ。容姿だけでなく、言動の全てに「男性性」が集約された高藤という人物が現れるたび、たまらなくモヤモヤする。

それはおそらく高藤が、「力」や「支配」など「男性性」の象徴であるから。一方、万太郎に全く不快感がない理由の一つにも、そうした「男性性」が感じられず、持ち合わせた性質がむしろ受容、共感、調和、直感、感覚、柔軟性などの「女性性」に近いからかもしれない。

おそらく多くの男性脚本家であれば、また、10年前であれば、こうした描き方はしなかっただろう。寿恵子の身を案じる母・まつ(牧瀬里穂)の「殿様だろうがお金持ちだろうが、男にすがって生きていくような娘にだけはしたくないんだよ」の一言に、首がもげそうになるほど頷いてしまう。

ともあれ、寿恵子の「お姫様抱っこ」を見てしまった万太郎は、その光景が頭から離れず、仕事が手につかない。そんな万太郎の思いを聞いたりん(安藤玉恵)やえい(成海璃子)やゆう(山谷花純)が、それぞれ恋の経験などを話し、万太郎を励ますと、万太郎は勇気をもらい、白梅堂に走り出し......。

そうそう、万太郎の魅力って、女性を支配しようとせず、下に見ず、自分の知らないことを知らないと言い、その言葉に耳を傾け、共有することができるところなのだ。

ますます神木隆之介が万太郎を演じる意義を強く感じる週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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