【らんまん】見事な「伏線回収」に驚愕! 視聴者を唸らせる脚本・役者・演出...「総合力」の高さ

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「それぞれの『自由』」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】竹雄(志尊淳)が切ない...密かな恋心と疎外感。序盤の「視点主人公」が果たした「重要な役割」

【らんまん】見事な「伏線回収」に驚愕! 視聴者を唸らせる脚本・役者・演出...「総合力」の高さ pixta_90576716_M.jpg

長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第4週「ササユリ」が放送された。本作は、明治の世を天真らんまんに駆け抜けた高知出身の植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の人生をモデルにしたオリジナルストーリー。

今週は万太郎、綾(佐久間由衣)、竹雄(志尊淳)のそれぞれの「自由」との邂逅・葛藤が描かれる。

東京から戻った万太郎は、植物の道を諦め、峰屋の当主として生きることを宣言する。しかし、心はそれについていけず、眠れない夜を過ごしていた。まるで都会に連れて来られて、故郷が恋しくて夢遊病になった『アルプスの少女ハイジ』のようだ。

そんな万太郎にタキ(松坂慶子)は、姉の綾と夫婦になるよう命じる。実は綾はヒサ(広末涼子)の子ではなく、タキの娘の子で、両親がコロリで亡くなり、万太郎が病弱なために本家を絶やさないよう引き取って来たのだ。つまり綾と万太郎は従妹のため、夫婦になれると言うのだ。

ここに来て小さな違和感の積み重ね――タキがヒサに言った「綾の母親になってくれて」も、万太郎を産むまでに「何度も何度も流産して」も、ヒサが亡くなるときの万太郎と綾への接し方の違いの理由もわかり、驚愕する。一人一人を丁寧に描いている本作において違和感があった部分は、「主人公とその他」の違いではなかったのだ。

それにしても本人は知らないままに、万太郎のスペアとして生きてきた綾の運命の切なさよ。当主でありながら植物の研究をしたい万太郎と、女性でありながら酒造りに強い関心を示す綾という「歪な二人」を思うからこその "奇策"が、「どうせ~」「生きながらえてしまった」「犠牲になるのはわしだけで~」と万太郎に断じられるタキの切なさよ。万太郎にタキが語った言葉「家の中で立場のない女がどればみじめな思いをするか」には、病弱ながらも跡継ぎを産むために流産を繰り返していた万太郎の母・ヒサへの思いもあったろう。もしかしたらタキ自身も......。

しかし、綾は抵抗し、家を飛び出して蔵人の幸吉(笠松将)の村に向かう。そこで綾が見たのは、畑仕事をする幸吉に寄り添う妻の姿だった。

一方、綾を追って高知に向かった万太郎は、自由民権運動の集会で綾の姿を見つけるが、政治結社リーダー・早川逸馬(宮野真守)の演説に、つい口をはさんでしまう。「無知蒙昧の卑しき民草」という表現が納得できなかったからだが、「名もない草はその名を知らんだけじゃ。名を知らんだけじゃなく、毒があるかクスリがあるか、その草の力を知らん。どんな草やき同じ草はひとつもない。一人一人生きる力を持っちゅう」とあくまで草の話をしているだけの万太郎の言葉を、逸馬は勝手に自由民権的に解釈し、「天賦人権!」「生存の権利!」「同士の団結!」と目を輝かせながら合いの手を入れる。こんなすれ違いコントのような掛け合いで笑いをとりつつ、視聴者に高揚感や感動を与える脚本+役者+演出の総合力の高さには唸らされる。

その出会いから万太郎は「自由」について知りたいと言い、綾と竹雄を残し、逸馬の率いる「声明社」に行き、さらに逸馬からジョン万次郎(宇崎竜童)を紹介される。

しかし、万次郎は「自分だけに果たせる務めがある。そうわかっちゅうのに己を殺したがよ」「自由を憎んでいる」と言い、その理由について語るのだ。

「知らんままでおったら、この歳になった今も胸の内を掻き立てられることらもなかったろう。気鬱の病にかかることもなかったろう」。そうした「自由」を自分自身が捨ててきたと言う万次郎の悔いを聞き、万太郎はそれが自分にとって植物だと呟く。

さらに万太郎は万次郎からシーボルトの植物図鑑をもらうが、それは十分な内容ではなかった。だからこそ、それができるのは自分だけだと確信する万太郎に「とんだ傲慢、ごうつくばりじゃ」と逸馬は愉快そうに笑う。

一方、綾と竹雄は夜祭に参加。タキの言いつけ通りにすると言う綾に、竹雄は逸馬の演説を借りて「これからは誰でも自由になれる」と言うが、逆に綾に自由になって良いと言われてしまう。幼い頃から万太郎や綾を守ることだけが使命で生き甲斐だった竹雄にとって、「自由」はそれらのつながりを断ち切る不安で残酷なものだろう。そして竹雄は、綾に対する思いを「お慕い......尊敬」と言い直し、東京で買ったかんざしも渡すことができず、そっとしまう。

「自由」を知ってしまったからこそ苦悩し、それぞれの決断をする万太郎と綾、「自由」のなさを幼い頃から受け入れ、そこに平安を見出していた竹雄。3人の対比がそれぞれに愛おしい第4週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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