ワフウフ著『アルツフルデイズ笑いと涙の認知症介護』からエピソードを厳選してお届けします。
浮気と金銭問題が原因で、両親は家庭内別居中。そんな中、母(あーちゃん)はお金や薬の管理ができなくなり、アルツハイマー型認知症と診断されます。これ幸いと、あの手この手で母の個人財産の独り占めを企てる、悪魔のような父(たんたん)から母を守り、極秘で施設への入居を計画するワフウフさんと姉(なーにゃん)。いつかは訪れる肉親の介護問題をリアルに考えさせられたかと思うと、ありえないトラブルが続出し、グイグイと引き込まれる、涙と笑いの介護ストーリーをお届けします。
※本記事はワフウフ著の書籍『アルツフルデイズ笑いと涙の認知症介護』から一部抜粋・編集しました。
【前回】気むずかしい母に脳ドッグを受けさせたい。そこで姉妹がひねり出した「妙案」は?
認知症検査の結果は微妙。薬を処方してもらいたくとも、自ら断る始末。しかし母の自覚なく、既に糖尿病の病院から処方されていた!
やっと認知症の薬を処方してもらえると思ったのに......
あーちゃんには脳ドックとだけ言って予約したが、実は申し込んだのは「脳ドック+認知症スクリーニングテスト」だった。
オプションで認知機能テストもつけたのだ。
本人には「セットになっているんだって、親切だねえ」と説明して誤魔化したよ。
病院に着くとすぐに看護師さんに案内されてあーちゃんは奥へと消えた。
あーちゃんの検査が終わるまで、待合室でしばし放心するワフウフとなーにゃん。
認知症の症状がひどく出ているあーちゃんを初めて見たなーにゃんは、激しいショックを受けていた。
小一時間であーちゃんの検査は終わり、その後先生に呼ばれ、
「特に大きな問題はありません。歳なりの動脈硬化や萎縮はありますが」
と、言われた。
しかし続けて言われたのは......
「ただ......長谷川式認知症スケールはちょっと低めですねえ」
長谷川式認知症スケールで、30点満点中あーちゃんは22点だった。
これは本当に微妙な数字で、21点以下は軽度認知症、20点以下ならば認知症の可能性があるそうだ。
正直言えばワフウフとしては、あーちゃんがこんな状態でも軽度認知症ですらない事に驚いたんだけどね。
先生が仰るには、あーちゃんは長谷川式認知症スケールの質問の中で、今日の日付けを答えられなかったのと、時計の絵が描けなかったらしい(短針と長針が逆転した、円グラフみたいな時計を描いたようだ)。
ちなみに、アルツハイマー病によくみられる内側側頭部の脳萎縮もやや見られたよ。
テストも萎縮も中途半端な状態のあーちゃんに、先生も診断をつけかねている感じで、「ご家族の方は何かお困りのことはありませんか?」と聞いてきた。
え? あーちゃんの前であーちゃんがおかしい話をしろと!?
とっさにワフウフがあーちゃんをトイレに誘って診察室の外に連れ出し、なーにゃんが先生に最近のあーちゃんの様子のおかしさを訴えた。
どう考えても今までと違っているし、認知症自体は治せなくても進行を遅らせるために薬を飲ませたい!
結局この日は、脳には顕著な問題はなくても血糖値異常だったり梅毒を持っていたりすると認知機能が低下することがあるため、次回に血液検査をして結果が出てからこれからのことを判断しましょうと先生に言われた。
そして次回の予約を入れて病院を後にしたのだが、それからが大変だった......。
「ねえ私、どこかおかしいの?」
あーちゃんは自分がいない所でなーにゃんが先生と話した内容をしきりと聞き出そうとし、涙目でこう繰り返したのだ。
帰り道も、お昼を食べながらもずっと。たぶん20~30回は繰り返したと思う。
どこかおかしいって......そういうところだよ。
「どこもおかしくないよ!」って言って欲しいんだろうことはよくわかるけど、実際「おかしい」と思って検査に連れて行ったわけで。
涙目のあーちゃんを「血液検査してみないとまだ分からないんだから!」とひたすらなだめ続けるしかなかった。
後日、血液検査を受けに行き、さらにその1週間後結果を聞きに脳神経外科へ行った。
血液検査は血糖値はかなり高いが糖尿病治療中なので仕方ない、他はおおむね問題なしという結果だった。
「何か困っていることはありませんか? 物忘れとか、失くしものが多いとか」
先生は脳ドック後の診察の際、なーにゃんからあーちゃんが最近おかしい、という話を聞いてわかっているので、なんとなーく薬を処方する方向に話を持って行こうとしてくださったのだが......あーちゃんは、
「全くございません! おほほほほ!」
おほほほじゃねえし!
困ってるのはこっちだっつーの!
実はあーちゃんは、脳ドックの時に持って来てねと言ってあった保険証を忘れたし、その後も公的機関の手続きに必要だったマイナンバーカードを作ったのか作ってないのか、あるならどこにあるのかわからなくなっていた。
困ってるじゃん......。
「特に自覚はないようだけど、ご家族も心配されているし、お薬を飲んでみますか?」
と、先生が優しく誘導してくれても、
「いいえ、必要ございません!」
薬断るし!
何のために骨を折ってここまで連れて来たと思ってるんだ!!!
埒が明かないのでここでなーにゃんがピシリとひと言。
「薬飲んで欲しい!」
ショックを受けた様子で怯(ひる)むあーちゃん。
ワフウフたちのやりとりを見ていた先生が糖尿の薬との飲み合わせも考えてみましょうか、と言ってあーちゃんのお薬手帳を見てくださった。
すると!
「糖尿病の病院で認知症の薬、すでに出されていますよ」
えっ!? ど、どーいう事!?
先生に促されてあーちゃんのお薬手帳を見てみると、確かにそこには「アルツハイマー型・レビー小体型治療薬」の文字が......!
処方箋のシールをお薬手帳にちゃんと毎月貼ってないから確認が出来ないけれど、1月には処方はないが3月には処方されている。
「そんな薬が出ているの? どうしてかしら、わからないわ!」
あーちゃんはなぜ認知症治療薬が処方されているのかも、いつから処方されているのかもわからないと言うが、何の検査も説明もしないで認知症の薬を処方するなんてありえないはずだ。
また、今までは処方薬だけで治療していた糖尿病で、インスリン注射が処方されていた。
それなのに本人は自分で注射を打っていないと言うのも気になった。
やっと認知症の検査を受けさせて、治療を始められる! と思ったらすでに治療薬を飲み始めていたという、よくわからない状況に困惑するなーにゃんとワフウフ。
脳神経外科の先生は「糖尿病の病院で認知症の薬を出してもらえるなら、その方がご本人のご負担が少ないでしょうからそうしてください」と言ってくださった。
そして、
「お母さんが薬をちゃんと飲めているかも確認した方が良いですね」
と、付け加えた。
投薬管理も出来ていないかも、ってこと?
確かに、認知症治療薬が処方されていることにも気づかないなんて、おかしいかもしれないな。
希望的観測だったかもしれないけれど、あーちゃんは軽度認知障害くらいの状態で、治療薬を飲んで今の状態をなんとかキープしてもらって......と思っていたのだが......もうそんな状態じゃない!? と愕然とした。