【舞いあがれ!】お父ちゃん、噓でしょ。衝突したままの父と息子を待っていた「残酷すぎる結末」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「対立したままの父子」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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【舞いあがれ!】お父ちゃん、噓でしょ。衝突したままの父と息子を待っていた「残酷すぎる結末」 pixta_88097244_S.jpg

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』で不穏な空気の漂う年またぎとなった第13週と、絶望の底に突き落とされた週またぎを迎えた第14週。

優しい人ばかりの本作において、これまでどうしても分かり合えず、衝突を続けていたのが、舞(福原)の父・浩太(高橋克典)と兄・悠人(横山裕)だった。

しかし、対となる存在の父子の行方が、まさかこんな悔いの残る結果になろうとは。

リーマンショックの影響でIWAKURAの経営が悪化し、浩太(高橋克典)が心労で倒れ、胃潰瘍で入院。

大事には至らず、無事に退院できたのも束の間、工場は赤字続きで、浩太は信用金庫や経理担当者から人員整理を迫られる。

そんな折、久しぶりに悠人が実家に帰省し、舞と浩太、めぐみ(永作博美)と久しぶりの家族団らんとなるが、悠人が工場を売ることを勧めたことから、父子で口論に。

舞はそんな悠人に工場を一緒に立て直す協力をしてほしいと頼むが、悠人は逆に、その場しのぎの親切は無責任だと舞を突き放す。

悠人が浩太に対し、これ以上負債を抱えないうちに「損切り」を勧めることも、浩太が現実を見る勇気がないという指摘も、舞の親切が無責任だという指摘も、いずれも「正論」だ。

その一方で、従業員の給料のために貯金を切り崩すほどひっ迫しているのに、従業員の誰一人として切り捨てたくないと言うような浩太だから、従業員たちが懸命に良い品質のネジを作り続け、工場を大きくできたこともあるだろう。

浩太の強みは、情に厚いことと共に、その思いを言葉できちんと伝えられること。

章(葵揚)が他社に引き抜かれるとき、チャラチャラした若者だった章がどんどん腕を上げていくのを見ていて「楽しゅうてな」、他社に引き抜かれるのは「悔しい」、でもそれだけの腕前になったのは「誇らしい」、一緒に働けなくなるのが「寂しい」と言った浩太。

特に中高年以上の男性には自分の「気持ち」を表現する形容詞が上手に使えない人も多いが、浩太の言葉にはそんな形容詞がたくさん登場する。

それが従業員たちに愛され、信頼され、めぐみや舞に尊敬される理由だろう。

その一方で「現実」を語るのは苦手とする部分で、経理やめぐみに人員整理を勧められても、気持ちの部分を捨てられず、諦めることができない。

対する悠人の言葉はどれもこれも「現実」を冷静に的確に突いている。

しかし、冷たい正論ばかり吐くように見える悠人も、かつて浩太の会社が潰れそうになったとき、自身が着々と準備してきた「中学受験で高偏差値の私立中学に入り、東大に入る」という目標を諦める危機に瀕した経験から、「お金」への執着心が生まれた経緯がある。

まして舞の発熱に親がかかりきりだった頃、不安や寂しさの中、自分自身で歩いていくための努力を模索した結果、たどり着いたのが、トレーダーの現在だ。

一方、悠人はおそらくそんな自分の努力、自分自身を、両親にも認めてほしいとずっと思っていたはず。

にもかかわらず、そうした「気持ち」を表現することが子どもの頃からずっと不得手なのだ。

対となる父と息子のスタンス・考え方は、いずれもその立場や性質から見ると「正しい」のに、どらちも少しずつ間違っている。

いつになったら二人が分かり合えるだろう、いつになったら浩太は悠人の生き方を肯定することができるのだろうと思っていた矢先。

章の置き土産であり恩返しでもあった試作品のネジが完成。

納期の関係から、大量発注を本格的に受ける前に、フル稼働で作り始めるというリスクのあるチャレンジを浩太は決める。

しかし、そこから事業回復......となるのかと思えば、浩太が突然亡くなるという衝撃の展開が描かれた。

父の最期の時までわかりあえなかった父と息子があまりに切ない。

そして、会社の窮状と向き合い、母のように会社を支えたいと言った舞に、浩太はパイロットになるという夢を追いかけるよう言った。

にもかかわらず、もし、結果的に父の死が舞に夢を諦めさせるきっかけになるとしたら、あまりに無念だろう。

しかも、リーマンショックから世の中がすぐに立ち直ることはないこと、不況がずっと続いていくこと、その後の度重なる災害なども、令和を生きる私たち視聴者はみんな知っている。

本作最大の分岐点と、おそらく最大の挫折が新年早々にやって来た。

その覚悟をしっかり受け止めたい。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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