毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「桑原脚本の心地よさ」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
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福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第12週が放送された。
本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。
今週からメインライター・桑原亮子氏の脚本が復活することで、変化が注目される節目である。
航空会社への就職活動に苦戦した舞は、苦労の末、博多エアラインに内定をもらう一方、柏木(目黒蓮)は優秀なパイロットになるためサンフランシスコに語学留学することになる。
「寂しいなんて言ってられない仕事だろ」と、脚本担当が代わってもちゃんと傲岸な物言いは変わっていなかった。
その一方、「以前の繊細な舞ちゃん」と共に、周囲の優しい人々が戻って来た。
リーマンショックで浩太(高橋克典)の経営する株式会社IWAKURAの経営が悪化。
そんな中、リーマンショックを予測していた投資家として悠人(横山裕)が登場する雑誌記事を浩太は複雑な表情で見ていた。
さらに舞もまた、リーマンショックの影響で就職が1年延期になり、五島で祥子ばんば(高畑淳子)が怪我をしたことから、五島に手伝いに行くことに。
そこに森重親子がやって来る。
都会の学校でなじめない朝陽(又野暁仁)の環境を変えるため、「留学体験」に来たのだ。
気難しい朝陽だが、舞はかつて自分の気持ちが言えず、心因性の発熱に苦しみ、五島で一時期を過ごした自分と重ね合わせ、そのしんどさに寄り添いたいと考える。
そんな中、全国で旅をしながら漁港、牧場など様々な場所で働く貴司(赤楚衛二)が、みかんの収穫の仕事で五島に来ていたことで、再会。
舞は朝陽が星に興味を持っていることを知り、貴司と共にさくら(長濱ねる)に教えてもらった「星空クラブ」に朝陽を誘う......という内容だ。
面白いのは、第1~7週と同じく、桑原脚本になった途端、「あらすじ」だけ追うと凡庸に見えること。
その実、しみじみとしたり、わけのわからないところで涙が出そうになったりする日々が戻って来たこと。
その理由は、桑原脚本の「心地良い温度」や「距離感」にある。
航空学校を卒業した舞は、帰宅するや、両親に「おかげさまで卒業できました」と航空学校に行かせてもらった礼を言い、頭を下げる。
就職が1年延期になると、自分にできることはないかと早起きして家族の朝食を作ろうとする。
朝陽を心配しながらも、いきなり隣に座るようなことはせず、少し距離を置いた場所に座る。
また、1年延期になったことについて由良先輩(吉谷彩子)に「長い休みもろたと思えばええんちゃう?」と励まされ、前向きにとらえようとしていた舞だが、ばんばに学校のことを聞かれると思わず「空飛ぶんはな、ほんまにワクワクすんねん」と笑顔がこぼれ、その表情にばんばは「飛びたいとね?」「就職延びて残念やったな」と"本音"を推し量る。
さらに、貴司は、自分の気持ちが言えているか舞に尋ね、「心ってな、重い荷物のせすぎたら飛ばれへんようになることもあるねんで」「しんどなる前に吐き出したほうがええで」と言う。
しかし、そこで舞が悩みを告白するのでなく、布団に入っても眠れない様子の舞にばんばが気づき、声をかけたことでようやく本当は不安だったという思いを吐露できるのだ。
みんながパイロットになるという同じ目標に向かい、学生同士という横のつながりの世界で、仮想敵の教官に「負けへんで!」と敵意をむき出しにした航空学校編時代。
シンプルでわかりやすい展開の中、人と人とのやりとりも「直球」だった。
しかし、脚本担当が代わり、話が「日常」に戻った途端、人の思いを察する人たちの中で、頭にばかりのぼっていた血液が指先まで流れ、全身の末端に神経が行き届いていくような変化を感じる。
もちろんズケズケと本音をぶつけ合い、一問一答のようなわかりやすい答えを常に求める人もいるだろう。
しかし、『舞いあがれ!』の心地良さは、遠回りしつつも、こうした痛みに対して直接手を触れてこない、察する優しさにこそある気がする。
12週終わりでは、朝陽がようやく自分の思いを外に出すことができ始めた矢先、浩太が救急搬送されるという事態に。
優しい人々と残酷な現実とが、再びこの作品に戻って来た。
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