毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ヒロインの未熟さ」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【先週】お父ちゃん、噓でしょ。衝突したままの父と息子を待っていた「残酷すぎる結末」
福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第15週「決断の時」。
1年で最も寒いとされる「大寒」にはまだ早いというのに、物語は最も寒風吹き荒ぶ残酷で絶望的な状況となっていた。
そんな中、今週は舞の未熟さ、甘さが容赦なく描かれる。
浩太(高橋克典)の突然の訃報を聞いた祥子(高畑淳子)と貴司(赤楚衛二)が五島から駆け付け、舞(福原)やめぐみ(永作博美)に寄り添う。
しかし、心の整理をする間もなく、浩太の遺した株式会社IWAKURAの今後が突き付けられることに。
信用金庫も兄・悠人(横山裕)も資産価値が低くなる前に工場を売ることを勧め、さらに悠人は舞に会社に投資してくれと頼まれても「投資家」としての判断から断る。
いずれも真っ当な判断だ。
しかし、悠人が浩太と喧嘩別れしたまま二度と会えなくなったという、誰より本人が悔いているはずの「現実」をわざわざ言語化して突き付ける舞。
普段「良い子」「賢い子」が、感情的になると、理詰めで逃げ場なく相手の急所を突いてしまう「あるある」を脚本家は熟知している。
それでいて、社長代行になっためぐみが工場をたたむと決めても舞は納得できず、「手伝う」を繰り返すばかり。
めぐみは浩太の思いを改めて知り、従業員たちのIWAKURAへの愛情を目の当たりにしたことで、工場をたたむことをやめ、自らが社長になって建て直すことを決断する。
しかし、そこで悠人が突然投資してくれるわけでもなく、新しい仕事をもらおうと奔走するも、逆にこれまでの取引先から、めぐみが社長では不安という理由で取引を打ち切られるという世知辛さ。
さらにそんな中、工場を存続するための苦渋の決断として、めぐみはリストラを迫られる。
「リストラする側」だけでなく、「される側」の苦悩を三者三様に描く本作の覚悟がすごい。
それにしても、短絡的に再雇用先がすぐ見つかりそうな若者でかためるのではなく、単に給料が高いベテランでもなく、若手より給料が高く、いなくなると立ち行かなくなるベテランでもない中間層が選ばれるなどのリアルは、息苦しくなるほどだ。
そして、そうしたリアルな描写の中で、舞の中途半端なおままごと感が際立つのも、狙い通りだろう。
めぐみにも、従業員たちにも、「手伝う」を連発している「他人事」スタンスにもかかわらず、自身は社会人経験もないくせに、退職勧奨の場には同席する舞。
唯一、退職勧奨を断った小森(吉井基師)に、昼食時に、リストラの話をしようとするのもあまりに惨い仕打ちだ。
一人でいる時間ではなく、周囲の目がある中、小娘に声をかけられる屈辱を思うと、猛烈なむなしさを感じても不思議ではない。
ただし、そんな舞に対し、今週は批判の声が続出していたが、はたして自分自身の20代前半はどうだったのかと考えると、決して批判なんてできないとも思う。
その対比が、ずっと不貞腐れ、舞に強烈な嫌みをぶつけている事務員・山田(大浦千佳)だ。
舞とそれほど年齢は変わらないだろうに、おそらく高卒で就職した山田は社会人経験の中で不満や小さな憤り、諦めなどを積み重ねてきたのだろう。
だからこそ、勉強もそこそこできて公立大に現役で入学したのに、大学を中退し、パイロットになるために航空学校に入り、内定先の航空会社から就職を1年延期されたことで、家業の「手伝い」に来ている「お嬢ちゃん」が鬱陶しくて仕方ないのだろう。
いくら嫌みをぶつけても、あまり堪えないところもまたコンプレックスを刺激し、苛立ちに拍車をかけている気がする。
しかし、自分の夢を追いかけて一生懸命勉強してきた舞が悪いわけでは決してない。
とうとう舞は必死に「自分のできること」を探し、小森の再就職先を見つける。
笠巻(古舘寛治)が教えてくれた小森の良い面――手を抜かないこと、どんなにつまらない仕事を言いつけられても腐らず真面目にやることを伝え、その仕事ぶりを担当者に見てもらったことで、評価されたのだ。
そして、退職を固辞していた小森の原動力もまた、浩太が自分の作ったネジを褒めてくれたこと、その丁寧な仕事を評価したことだったとわかる。
しかし、同時に今の日本が「目立たず、特別な能力や技術がなくとも、丁寧にコツコツ真面目に仕事をする人」を切り捨てる社会である苦味とも重なり、なんともしんどい気持ちになる。
とうとう航空会社の内定を断り、柏木(目黒蓮)とも目指しているものが違うことから別れ、めぐみと共にIWAKURA再建へのスタートを切った舞。
脚本を手掛ける桑原亮子の人間のとらえ方の深さ、鋭さがこれでもかというほど発揮されていた第15週だった。