【舞いあがれ!】残酷な"対比"が苦しい...「上昇するヒロイン」の裏でもがく「下降する者たち」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「上昇する者、下降する者」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】かっこよく、美しい...!吉谷彩子さん演じるヒロインの先輩"由良"の存在感

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福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第6週が放送された。

本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。

今週は、テスト飛行を無事終えた舞の記録飛行本番。

しかし、そこがピークでないのが、本作のニクイところだ。

テスト飛行を無事終えた舞が、ペダルが予想以上に重かったと感想を漏らすと、刈谷博文(高杉真宙)はさらなる改良を提案。

それには金属部品が必要になるということで、舞は部品工場を営む父・浩太(高橋克典)に相談し、笠巻(古舘寛治)が調整してくれることに。

舞に彼氏がいるのではないかと心配し、それが杞憂だったことで安堵する浩太。

舞の減量が成功、炭水化物解禁となり、なにわバードマンでたこ焼きパーティをする様子。

口々に「奇跡」と言う部員たちと、刈谷のロマンチスト発言など、今週は珍しく効果音やBGMを含め、ベタな演出が続いた。

しかし、それはむしろ後半の不穏さを引き立たせるためだったことが後にわかる。

いよいよ本番。

舞は懸命に漕ぎ続け、仲間たちは励まし続ける。

途中コックピットの暑さに舞が疲労し始め、スワン号が下降してくるが、そこで日下部(森田大鼓)がフェアリングに風が通るようにしてくれた工夫が奏功し、風を受けた舞が少し回復、スワン号も再び上昇。

結局、目標には届かなかったものの、約10分、距離にして約3.5kmも飛ぶことができた。

しかし、みんなのスワン号をもっと飛ばしたかったと悔し泣きする舞に、刈谷は今日のためにここまで生きて良かったと思えたと伝える。

非常に長くしんどく感じられる飛行シーン。

コックピット側から見る機体は非常に薄く軽そうで、脆そうで、だからこそこんなにも飛ぶのかと驚かされる。

ところで、これまで「鳥人間コンテスト」で、飛ぶ前に機体が崩壊する様を笑って見ていたが、全く笑いごとじゃなかった。

本当に人間の力で飛ぶんだ、それがこんなにも大変で美しいものなのだということを、本作で初めて知った。

これからは「鳥人間コンテスト」を見る目が大きく変わる人がたくさんいそうだ。

それにしても驚くべきは、飛行後に全員で円陣を組み、パイロットの舞をみんなが胴上げしてくれ、数日後に3回生が引退。

打ち上げやドラマチックな別れの挨拶などないままに、なにわバードマンはあっさり代替わりしてしまうこと。

実際、熱心に活動している部やサークルほど、試合終了即引退で、去り際もあっさりで、愛おしい先輩ほど引退後は部にフラフラ遊びに来ないというリアリティ。

だからこそ青春の刹那の美しさがあるのだと、寂しさと共に実感する。

そして、次のパイロットに選ばれたのは由良(吉谷彩子)だった。

しかし、記録飛行を終えたとき、「幸せでした。空飛ぶとき、このために生まれてきたんちゃうかって思ったんです」と感想を漏らした舞は、空を飛んだときの気持ちを忘れられずにいた。

そこで、パイロットの本を読むなどしていたが、そんな舞に由良はジェット機のパイロットになるのが夢だったこと、しかし、航空学校に行くには身長158センチ以上の基準に足りず、諦めたことを話す。

ピンチヒッターとしての人力飛行機でのパイロットの経験が、旅客機のパイロットになるという夢につながる自然な流れ。

しかし、両親には言い出せず、舞は航空学校に行くための勉強を始めつつ、バイトも増やして貯金をするため、部活を休止する。

非常に前向きでまっとうなヒロインだ。

しかし、前向きに真っ当に努力できることが、ある種恵まれているからだということが、由良の思い、幼馴染の久留美(山下美月)や貴司(赤楚衛二)との対比で浮かび上がる。

ラグビー選手をケガで引退した後、仕事を転々とする父・佳晴(松尾愉)と2人暮らしの久留美は、父を支えながらバイトをし、勉強を頑張って授業料免除の特待生をキープしている。

幼少時に家を出て行った母からは毎年バースデーカードが来るだけだが、父がまたケガで仕事を辞め、おまけに「あいつ(母親)と一緒に行ったら良かったんや」「結婚でもなんでも~」と投げやりに言ったことで、衝突。

母に連絡をとるかどうか悩み始める。

一方、貴司は仕事のノルマが達成できず、先輩からパワハラを受けており、会社に居場所がなく、詩も書けない状態だった。

そこに来て、心の支えだった「デラシネ」が閉店すると聞き、落胆するが、店主の八木巌(又吉直樹)からは胸にぎゅうぎゅうに詰まったまま出られない言葉を短歌にすることを勧められる。

暗闇でもがく者たちの不可抗力の下降と、さらなる飛躍に向けて上昇の準備をする者と――残酷な対比に、胸が苦しくなる第6週だった。

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文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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