毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「柏木学生と大河内教官の存在感」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】私たちの知らない舞ちゃんが...「航空学校編」スタートで視聴者がざわつく理由
福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第9週が放送された。
本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。
今週は帯広でいよいよフライト過程がスタート。
「航空学校編」がスタートした第8週は、脚本家や制作スタッフなどを含めた新たなチームに代わったことで、ヒロインのキャラ変や、突然のコメディ演出に戸惑いの声が噴出していたが、9週は落ち着いたトーンが復活。
6人組だった舞のチームは、半分ずつに分けられ、舞と柏木(目黒蓮)と水島(佐野弘樹)と3人1組のチームに。
そして、指導教官は、容赦なく学生をフェイル(退学)させるという噂の鬼教官「サンダー大河内」こと大河内守(吉川晃司)になり、初フライトに向けての基本動作・プロシージャーの確認が行われる。
ところが、舞は言葉が出てこなくなり、うまくいかなかったために、初フライトでは1番手に指名される。
舞はふらつきながらも指導に従い、機体を飛ばすことに成功。
しかし、そこで交代予定の水島が酔ってしまい、柏木に代わるという展開に。
その後、フライト過程は順調に進むが、舞は着陸に苦戦。
大河内からはそれぞれの課題が指摘され、舞は慎重になりすぎて一つ一つの操作が遅いと言われ、落ち込むが、見かねた柏木がイメトレに付き合ってくれる。
手作りのレバーを柏木が褒めてくれてくれたことで、舞がレバーを作ってくれた浩太(高橋克典)の話をすると、珍しく柏木も自分の父の話をし、二人の距離は接近。
しかし、完璧だった柏木が、フライトの内容が突然変更になったことで方向がわからなくなり、ミスをしてしまう。
大河内から「自分を過信する人間はパイロットに向いていない」と諫められていた柏木だったが、完璧主義でプライドが高く、挫折を知らないゆえの弱さゆえに、そこからミスを連発することに。
チームとして助けたいと思う舞と、意外と周りをよく見ている水島、そして助けることはできるのに、自分が助けを借りることは苦手な柏木。
今週際立っていたのは、第7週までを思い出させる、フライト中の臨場感と緊張感、高揚感の生々しい表現。
「クセが強すぎる山下教官」(板倉チヒロ)や、ステレオタイプな感もあるチームメイトたちの人物像や、舞と柏木の急接近展開などは少々ベタだ。
しかし、ツンツンしていた柏木の壁が壊れていく様、無防備さや動揺、挫折と、展開自体はベタなのに、わかりやすい急変ではなく、自然かつ新鮮な表情を見せる目黒の演技が良い。
さらに、ともすれば軽めの描写に重厚感を与えていたのは、湿度も品もある演出と、なんといっても大河内の存在感だ。
当初の設定では口調も「ワイルド」だったところ、吉川の「言葉遣いや物腰をものすごく丁寧に礼儀正しい男にしたい」という提案で、こうした大河内像ができあがったそうだが、結果的に大正解だろう。
ただし、極めて正論を言う、思慮深く威厳のある良い教官になっていることは、作品にとっては喜ばしいことだが、その一方で置き去りにされてしまったのは「鬼教官」設定。
現時点では、大河内の指導は実に真っ当なのに、学生たちには「鬼教官」と呼ばれ、「今日も怖かったねー」と噂されるのが不思議な状態になっている。
噂ばかりが独り歩きし、実際に会ってみたら全然違っていた...というのはある種のリアルだが、「いまどきの若者はこの程度で怖いと思うのか」「ナイーブな若者たちに指導するのは難しいものだな」などと大河内が同情されかねない状況でもある。
人物設定、脚本、演出、役者、それぞれが良い作品を作ろうと模索している感のあった第9週。
その創意工夫と熱量が徐々に結びつき始めているのではないだろうか。
【人気】これぞ朝ドラ...!「15分の積み重ね」で丁寧に描く「ヒロインの成長」【舞いあがれ!】