毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「重要な拠点・五島の力」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】残酷な"対比"が苦しい...「上昇するヒロイン」の裏でもがく「下降する者たち」
福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第7週が放送された。
本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。
今週は舞、久留美(山下美月)、貴司(赤楚衛二)それぞれの悩みや葛藤、家族の思いが浮き彫りになる。
そんな中、見えてくるのが、重要な拠点・五島の力だ。
旅客機のパイロットになりたいから航空学校に行かせて欲しい、試験に合格したら大学を中退するという舞に、母・めぐみ(永作博美)は猛反対。
その頃、久留美は父・佳晴(松尾諭)がまた仕事を辞めたことに落胆、口論となり、毎年バースデーカードを送ってくる母に会いに行くことを考え始める。
一方、貴司が突然失踪、会社を辞めていたことがわかる。
舞は貴司に電話するが、つながらず、古本屋「デラシネ」に行ってみると、デラシネは閉店していた。
全然知らなかったと、ショックを受ける舞。
しかし、貴司の異変も、知らなかった、気づかなかったわけじゃない、本当は元気がないと思っていたのに自分のことで精一杯だったのだと、自分を責める。
そんな中、貴司が五島にいることが発覚。
舞と久留美は貴司を探すために五島に向かうが、舞には貴司の居場所に心当たりがあった。
それは、舞が小学生の頃、貴司に五島から送った絵葉書の景色・灯台だ。
あの頃、舞からの絵葉書をじーっと見ていた小学生貴司の姿が浮かぶ。
当時はその表情を、離れて暮らす舞の元気そうな様子への安堵や寂しさだろうと思っていた。
しかし、その光景は文学少年・貴司の心に刺さり、舞を元気にした五島という場所への特別な印象を与えていたのだろう。
舞と久留美と再会した貴司は、ノルマを達成できず、営業成績最下位で、"普通の人"にできることが自分にできないことに悩んでいた。
その思いを「デラシネ」の店主(又吉直樹)だけには話せていたが、デラシネが閉店し、会社に行けなくなり、舞が五島にいたときに送った絵葉書を思い出したと言う。
自分には何もない、空っぽだと言う貴司に、多くを語らず聞かず、ただ一言「しんどかったんやな」と心情に寄り添う舞が、実に舞らしい。
五島に来て、海の色や「ただの闇」と思っていた空に無数に浮かぶ星を見るうち、今まで狭い世界しか見えていなかったことに気づいたと言う貴司。
そして、そんな貴司の話を聞いた祥子ばんば(高畑淳子)は、「そんで逃げてきたとか」と要約し、慌てて咎める舞に、認めたほうが良いと言う。
貴司が認めたら楽になった、違う自分になりたくて来たのに、このままでいいと思えたと言うと、「おもしろか」「変わりもん」と笑う。
その言い方について舞が再び咎めると、祥子は「腫れもんごた扱わんでよか」「貴司くんも周りに合わせんでよか。自分のこた知っちょる人間が一番強かけん、変わりもんや変わりもんで堂々と生きたらよか」と肯定するのだ。
舞も久留美も貴司も優しく、人の気持ちに敏感だからこそ、幼馴染にも見せない顔、踏み込めない領域を持っている。
だからこそ長年の友情が続いてきたわけだが、そんなデリケートさで覆われた壁を、素朴でちょっと荒っぽく、とびきりあたたかい五島という土地が、祥子ばんばのおおらかさが壊していくのがよくわかる。
かつて自分の気持ちを言えなかった舞が、五島で自分の殻を破ることができたように、貴司は"普通"になじめない自分を認め、そのままの自分でいられる場所を探しながら生きていくこと、本音を親に話すことを決意。
そんな貴司の思いに背中を押され、舞もパイロットへの夢を諦めないこと、久留美は母と会うことを決意し、それぞれ親と向き合う。
舞は五島にやって来た両親に夢を目指すことを認めてもらい、久留美は初めて自分の不安を母に伝えることができた。
そして、結婚の申し込みの時以来の五島来訪となった舞の父・浩太(高橋克典)は、祥子に謝罪し、めぐみを「幸せにするつもりが、幸せにしてもらっていました」と伝える。
祥子はめぐみがすぐ逃げて帰ると思っていたが、帰ってこなかったことが「寂しくて嬉しかった」と明かし、幸せにしてくれてありがとうと伝える。
年賀状を送ることでつなぎ続けた浩太の縁が、舞を五島に導き、元気にし、そんな舞の絵葉書が今度は貴司を癒し、そして貴司の決意が舞と久留美の勇気につながる――この連鎖の軸に、五島という土地がある。
複数の土地を頻繁に便利にワープする、形式的会場の役割しか担っていない朝ドラ作品も多数ある中、土地が育むモノや人、風土の力への信頼が説得力をもって描かれているのもまた、本作の魅力だ。
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