【舞いあがれ!】私たちの知らない舞ちゃんが...「航空学校編」スタートで視聴者がざわつく理由

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「私たちの知らない舞ちゃん」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】高畑淳子さん演じる"ばんば"の言葉が染みる...! ヒロインたちを救う「五島の力」

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福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第8週が放送された。

本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。

第8週から「航空学校編」スタートに伴い、脚本家が桑原亮子氏から嶋田うれ葉氏に代わり、演出やロケの段取りなどを行う制作スタッフも含めて「航空学校編チーム」が結成されたことが公表されている。

しかし、そうした事情を全く知らない人であっても、第7週まで本作をしっかり観ていた人であればほぼ誰でも戸惑いを感じるほどの作風の変化とキャラ変ぶりが、突如やって来た。

子役→本役への交代や、本役→晩年の役者への交代で違和感を覚えることは朝ドラでは多々ある。

また、『春よ、来い』(1994年~1995年)のように、いざこざでヒロインが途中交代した作品、『エール』(2019年度下半期)のように脚本家が途中交代した(クランクイン前に降板が決まったとされる)作品はあっても、本作のように最初から脚本家のチーム制が公表されていて、同じ役者が出ているにもかかわらず、別人になってしまったような印象を受けるケースは、『マー姉ちゃん』(1979年度上半期)から全作観てきた自分のおぼろげな記憶では初めての気がする。

無闇に画面分割が行われ、『ちむどんどん』を彷彿とさせる大仰なBGMが流れるコメディタッチの演出に心がザワザワするが、何より驚いたのは、第8週になって「私たちの知らない舞ちゃん」がいたこと。

航空学校を目指し、猛勉強する傍ら、少しでも親の負担を軽減するためバイトに励む舞。

それ自体は舞らしいが、記録飛行に向けて、過酷なダイエットでプロテインだけ摂取していた時期にも、きちんと食卓につき、両手を合わせて「いただきます」「ごちそうさま」をしていた舞が、玄関先まで母・めぐみ(永作博美)がロールパンなどを持って来てくれたのに、ロールパンを口に詰め込むことすらせずに飛び出していく子になってしまっている。

また、バイト先でコーヒーをひっくり返したり、学校に行くのにカバンを忘れて取りに戻ったり。

大事な面接前に柏木(目黒蓮)にグイグイ話しかけたり、その時の印象の悪さを、幼馴染の久留美(山下美月)と貴司(赤楚衛二)と「うめづ」で話して悪口で盛り上がったり、面接では想定内の定型質問にも準備不足だったり。

いざ試験に合格しても、祥子ばんば(高畑淳子)や由良(吉谷彩子)と「なにわバードマン」たちに報告もしなかったり、入学後は、なぜか「勉強のできない残念な子」になっていたり、同部屋の倫子(山崎紘菜)が夜な夜な出かけることが気になって尾行したり、同班のギスギスぶりが気になってクリスマスパーティを企画したり。

人の気持ちに敏感でありながら、自分の気持ちを伝えることが苦手な舞が、五島での日々で変化したのは、実に自然だった。

一見病弱で内気な印象ながらも、実は好奇心が強そうな様子は、五島で初めて触れるモノへの接し方に滲み出ていたし、ばんばをはじめとした人々との交流の中で小さな出来事の積み重ねで見えていたからだ。

「飛行機が好き」で公立小中高を経て、通塾ナシで地元の公立大航空工学部に入ったのも、いかにも日々の積み重ねを大事にする、きちんとした優等生の子らしい。

この手の子は「努力」が標準装備になっているだけに、同じ場所に属する集団の中で、恵まれたレールを歩んできた裕福な面々に比べて「おバカな子」になるケースはあまり見たことがないのだが...。

母子家庭で優秀かつ明確な目標を抱く吉田学生(醍醐虎太朗)を配置しているだけに、エリート&金持ち層と吉田学生との間の配置で、「なんとなくダメな子」に描かれてしまうのだろうか。

あれだけ慎重で「後方確認をする人」(シネマトゥデイ10月10日での制作統括・熊野律時氏インタビューより、桑原氏が常々話していたこと)だった舞ちゃんの変化が、過労かストレス過多によるものではないかと不安になって来る。

ついでに、ノーサイドのママ(たくませいこ)が急に恋バナ好きの下世話で雑な人になったことも、貴司がヌルい旅人ニートになったことも、やっぱり不安だ。

ただし、第8週目になってから「わかりやすい」「面白くなった」という層も予想以上に多いのは事実。

ぜひスピンオフでは7週目から8週目に至るまでの空白期間に舞や貴司、ノーサイドのママに起こった出来事を描いて欲しい。

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文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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