【舞いあがれ!】「飛行機大好き少女」はどこへ...脚本家、演出家の違いを察知する朝ドラ視聴者たち

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「新たな朝ドラの楽しみ方」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】目黒蓮さん演じる「柏木学生」に変化が...?「成長」を丁寧にみせた高い演技力

【舞いあがれ!】「飛行機大好き少女」はどこへ...脚本家、演出家の違いを察知する朝ドラ視聴者たち pixta_50597096_S.jpg

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第10週が放送された。

本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。

メインライターの桑原亮子氏から嶋田うれ葉氏に脚本がバトンタッチされ、作品のトーンが大きく変わったことに多くの視聴者が戸惑いを感じた「航空学校編」スタートの第8週から、第9週(松木健祐氏演出)は品も落ち着きもあるトーンに変わり、安堵したのも束の間。

今週から脚本が嶋田うれ葉氏から佃良太氏に代わったかと思えば、再びベタベタな演出や画面分割が戻って来た。

もしや......と思ったら、演出は第8週と同じ野田雄介氏である。

この事実に、「情報」を得る前から、多くの視聴者が作品のトーンの変化だけで気づいていたことには、朝ドラの観られ方の成熟を感じずにいられない。

帯広でのフライト訓練の最中、大事な中間考査前日に、舞は柏木(目黒蓮)から告白されそうになり、悶々としていた。

舞は審査で着陸がうまくできなかったものの、危険を回避した判断は評価され、ギリギリ合格に。

そんな中、水島(佐野弘樹)だけが不合格となる。

水島は大河内教官(吉川晃司)による再審査を受けることになり、舞と柏木もサポートするが、弱点を克服できず、帯広を去る。

抱き合って泣く水島と柏木と舞の画は、なかなかベタだ。

さらにベタなのは、その後。

舞は仲間との別れに落胆するが、柏木の姿が見えなかったことから、柏木の部屋を訪ねる。

柏木は「大河内教官から逃げない」と宣言し、舞は安堵するが、部屋にノートを忘れたため、ノートを持って追いかけてきた柏木と机の下で何やら良い雰囲気に。

そして、柏木は不意に「俺、お前のことが好きだ」と告白するのだった。

暗闇で突然腕をつかまれる行為は女性にとって相当な恐怖を伴うものだと思うが、それは柏木と舞の関係性あってのものかもしれない。

しかし、その後に柏木が机に頭をぶつけるベタな演出は多くの視聴者の予想通り過ぎた。

舞たちはいよいよソロフライト訓練に臨むが、柏木と共に「大河内教官を見返す」ことを誓う。

「努力は報われんねん!」「大河内教官、見といてや!」という唐突なコテコテ関西弁を放つ舞。

「私、教官に負けたくないんです!」という謎の対等目線も、若気の至りか。

模型飛行機やばらもん凧を一生懸命飛ばし、「なにわバードマン」の部室でスワン号の主翼の美しさに見惚れて思わず手を伸ばしてしまった舞の目に、今、飛行機は映っていない。

そんな舞にとって飛行機は今や「大河内を見返す」手段に過ぎなくなっているように見える。

もしかしたらこれは訓練と集団生活の中で発生した一種の「集団パニック」のようなものか。

「大河内への復讐心」に憑りつかれ、空を飛ぶ楽しさを忘れた舞の姿が悲しい。

しかも、着陸がうまくできない舞が「見返す」目的のために「宿敵」大河内に頭を下げ、1人で着陸特訓を受けさせてもらう流れも、復讐モノとして一つの定番パターンだ。

そして、着陸がうまくできるようになった舞は、疲労がたたって熱を出してしまい、柏木と大河内からそれぞれアイスクリームの見舞いが届けられる。

第8週に続き、多くの視聴者が戸惑いを感じた第10週。

野田氏が演出を手掛けた第2週が非常に繊細なタッチだったのが逆に不思議なくらいだが、『NHKドラマ・ガイド 舞いあがれ! Part1』(NHK出版)の「あらすじ」を見ると、第6週目までは1週分ごとに細やかな描写が記されているのに対し、「7・8・9週」「10・11・12週」はそれぞれ3週分をまとめたストーリー展開だけになっていることも興味深い。

第7週までは桑原氏の繊細な筆致が作品の質感までもコントロールしていたということだろうか。

もちろんこれまでも『カムカムエヴリバディ』(2021年度下半期)の安達もじり氏演出週や、古くは『ちゅらさん』(2001年度上半期)で後に『るろうに剣心』シリーズなどを手掛ける映画監督・大友啓史氏の演出週など、「演出」が注目されるケースはあった。

しかし、本作では複数の脚本家と演出家によるトーンの違いを感覚的に察知しながら、クレジットでその答え合わせをするという、新たな朝ドラの楽しみ方が育ちつつある。

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文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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