【舞いあがれ!】これぞ朝ドラ...!「15分の積み重ね」で丁寧に描く「ヒロインの成長」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「1歩ずつ成長するヒロイン」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

 【舞いあがれ!】これぞ朝ドラ...!「15分の積み重ね」で丁寧に描く「ヒロインの成長」 pixta_88176765_S.jpg

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第2週が放送された。

本作は、ものづくりの町・東大阪で生まれたヒロイン岩倉舞(福原)が、長崎・五島列島に住む祖母や様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。

朝ドラでは「ヒロインの成長」が多く描かれるが、それを1日15分という短尺の積み重ねで説得力を持たせて描くことは非常に難しい。

しかし本作の場合、スタート2週間で「失敗と後悔」を軸に、舞(浅田芭路)の成長、さらに母・めぐみ(永作博美)と祖母・祥子(高畑淳子)の「修復」を経た成長が鮮やかに描かれている。

めぐみが東大阪に帰り、舞と祥子の二人暮らしがスタート。

自分のことは自分でするように祥子に言われた舞は、皿を割ったり、寝坊して学校に遅刻したり、収穫した枇杷をひっくり返したり、ジャムをこぼしたり...と失敗ばかり。

しかし、落ち込む舞に祥子は「失敗ばすっとは悪かこっちゃなか」と言い、できないことは次にできるように、できないならできることを探すように励まし、最後までやったことを褒める。

一方、祥子の「失敗」も見えてくる。

釣り客の橋渡しで乗る船に「めぐみ丸」という名前がついていることに気づいた舞が、なぜ母と14年間も音信不通になっていたのかと祥子に尋ねると、祥子は自分がめぐみに対して失敗したこと、本当は会いたかったこと、今、舞と一緒に暮らせて嬉しいことを語るのだ。

そして、舞の兄・悠人(海老塚幸穏)と舞が生まれたときに作ろうとして途中になっていたばらもん凧を見せ、一緒に完成させようとするが、釣り客の迎えの時間を忘れていたことで客に怒られ、飛行機代も弁償することに。

しかし、落ち込む祥子の手をとり、今度は舞が「失敗は悪いことやないねやろ」と励ます。

祥子が舞を励まし続けてくれたから、そして祥子自身が失敗をさらけ出したから、舞は不安から抜け出し、一歩前に進めたのだ。

そんな中、舞はジャムの配達に浦家を訪ねるが、そのとき一太(野原壱太)の母・莉子(大橋梓)が産気づき、舞は全力で走って祥子を呼びに行くことに。

莉子は無事病院で出産するが、このとき舞は走ったにもかかわらず、熱を出さなかった。

運動会のリレーで転んで失敗してみんなに責められたことから、「失敗=不安、恐怖」になっていた舞が、不安から徐々に解放されていく。

さらに、次のステップとして、全力で走って人の役に立てたことによる達成感や自信を持ち始めた。

しかし、生まれてきた赤ちゃんのためのばらもん凧を一緒にあげようと一太に誘われると、舞は拒否。

失敗する不安が和らいできたとはいえ、それが誰かのためのものとなると、やはり怖いのだ。

そして、その一件がきっかけで一太と気まずくなった舞はその夜、久しぶりに熱を出す。

舞の発熱が心因性だということは明らかだった。

しかし、翌日、舞は祥子に自分の思いを打ち明ける。

そんな舞に祥子は自分の気持ちも大事にしなければと言い、めぐみに相談するようアシストするのだった。

成長したのは、めぐみも同様だ。

舞の話を聞いためぐみは、祥子が舞にそうしたように「舞の気持ちはどうなの?」と聞く。

すると、舞は「赤ちゃんに元気にたくましく育ってほしい」と言う。

常に先回りして舞の体調を心配し、制限してばかりだっためぐみが、舞の気持ちを聞くようになったことも、舞が自分の気持ちをちゃんと言えるようになったことも大きな変化だ。

舞は翌朝、一太のところに行き、「私もばらもん凧、あげたか」と伝える。

一太はそんな舞に、ばらもん凧を最初に飛ばしてみろと言い、舞が全力で走って凧をあげると、一太やみんながサポートしてくれた。

「ばんば、私があげたよ!」嬉しそうに言う舞の祥子の呼び方が「おばあちゃん」から「ばんば」に変わっていることにグッとくる。そして翌朝、祥子はめぐみに電話で「もう舞は大丈夫。大阪に帰らすよ」と告げる。

きちんと畳まれた布団の1カットに、成長と、寂しさを感じてまたグッとくる。

舞を迎えに再び五島を訪れためぐみの顔は、14年ぶりの帰郷のときの畏まった硬さと違い、少女のような面影を漂わせていた。

港で迎えた祥子も、14年ぶりの再会で嬉しさと気まずさと緊張とで棒立ちだったときとは異なり、ゆるやかだ。

何よりオドオドしていておとなしい印象だった舞の表情が、明るくエネルギッシュになり、声も自然と大きくなっている。

そして、帰って来た舞の姿を見た瞬間の悠人の「あっ」という小さな呟きと、一瞬の照れくささと嬉しさが滲み出る表情と......一直線に変化するのでなく、周りの人たちや環境の影響で、一進一退しつつも「成長」していく確かな歩みと、心情の変化を、説明でなく「表情」から感じることができる、15分の積み重ねという贅沢さ。

朝ドラで観たかった要素が凝縮された2週目だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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