【ちむどんどん】暢子様がやんばるへ...涙の送別会で全員が忘れていた「2つのこと」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ちむどんどんお別れ会」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】比嘉家の物語は終わらない...「健彦」の名から浮かび上がる「不穏な予兆」

 【ちむどんどん】暢子様がやんばるへ...涙の送別会で全員が忘れていた「2つのこと」 pixta_42005254_S.jpg

本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第24週。

今まで本作の真の意図を懸命に考え続けてきたが、今週くらい考えさせられる週はなかった。

なぜなら、タイトル「ちむどんどん」と、朝ドラでありがちな悪い慣習「ヒロイン(暢子)のおかげ」がこれでもかというほど連呼されたため。

暢子(黒島結菜)の産後、育児の日々は描かれず、健彦(三田一颯)4歳になっていた。

その世話は義母・しーちゃん(鈴木保奈美)と、あまゆのおかみ・多江(長野里美)が奪い合うようにしてくれていたのだから、暢子に母親っぽさがないのも納得である。

暢子の店「ちむどんどん」は繁盛しているものの、和彦(宮沢氷魚)はライフワークである沖縄の記事が書けず、モヤモヤ。

新聞社にいたときも、フリーランスになっても、やはり自分探し気質は変わらない。

一方、歌子(上白石萌歌)は「ちむどんどん」をやめ、やんばるに戻り、居酒屋で民謡ライブを時折行っていたが、智(前田公輝)との仲は進展せず。

そんな停滞状態を動かすのが、やはり暢子様だ。

暢子たち一家が里帰りし、親しい人々を招いて比嘉家で宴会が準備される中、暢子に頼まれた山菜を採りに行った歌子と智は、歌子にレコードデビューの話が出ている話をめぐり、口論智が足を怪我して山小屋で休む中、急接近。

恋バナ大好きちむどんワールドで、このベタな接近イベントをラスト2週の段階で盛り込むという、恋バナに対する並々ならぬ意欲には驚かされる。

そして、2人をもどかしく思う和彦が智に角力(すもう)を挑み、和彦が勝ったら歌子に気持ちを伝えろと言う。

まるで中学生同士のような初々しいやりとりだが、彼らももう30代半ばと考えると、若々しさは日々ちむどんどんしているためか。

結果はドローだったが、宴会にやってきた智が歌子にちむどんどんする思いを告白......という段階で、暢子が持ち前の食い意地&KYぶりを発揮。

智がゆし豆腐を持って来てくれなかったことを責める展開に、さすがの周囲も苛立ちを見せる。

そんな中、不意に歌子が歌い始め、智が歌子への思いを公開告白、みんなが祝福して歌い踊る様を見ながら、何でも開けっぴろげな「共同体社会」の煩わしさを感じてしまった人もいただろう。

しかも、歌子と智のハッピーエンドも「暢子のおかげ」と言わざるを得ないのだ。

さらに帰りたくないという健彦、やんばるで暮らしたいと考え始める暢子を見て、和彦がやんばるへの移住を提案。

「ちむどんどん」は矢作(井之脇海)に任せて、暢子らは故郷に戻ることに。

そして暢子らのお別れ会が行われるが、「卒業式」のように一人ずつ挨拶をしていく中、涙ぐむ田良島(山中崇)や二ツ橋(高嶋政伸)は今生の別れのような気配を漂わせ、こじらせオーナー・房子(原田美枝子)は寂しさゆえに姿も見せない。

しかし、彼らは忘れている。

これまで比嘉家の面々がどれだけ突然の上京を頻繁に繰り返してきたかを。

おそらくこの別れも、大した別れではないはずだ。

それにもう一つ、その場の誰もが忘れているらしいのは、健彦の存在だ。

すでに寝かされているのか、それともまたしても良子(川口春奈)の子どものときと同じく、歌子が便利使いで呼び出されて子守をしているのか。

健彦を溺愛してきたしーちゃんも、悠長に息子夫婦に詩を贈るより、健彦との別れを惜しむ時間にしても良かったのではないか。

それとも、どれだけ愛情を注いできても、やんばるから帰りたくないと言われてしまうことで、しーちゃんは再び深く傷ついているのか。

そして、いつでも自分が「ちむどんどんする」ことを最優先する本作が伝えたいこととは――限りある人生では、周りがどうあれ、自身の気持ちで突き進むエネルギーが必要だということか。

そんな利己的で刹那的な生き方や、「共同体の温かさ」という名の鬱陶しさに尻込みしてしまうのは、都会の合理的で冷たい人間関係に染まっているためなのか。

ますます混乱し、考えさせられた24週を経て、いよいよ最終週。

この混乱や心の迷いが少しでも晴れるのか、それとも疑問を提示し続ける作品だったのか、その答えを最後まで見守りたい。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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