【ちむどんどん】比嘉家の物語は終わらない...「健彦」の名から浮かび上がる「不穏な予兆」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「チラリとのぞく不穏な予兆」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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【ちむどんどん】比嘉家の物語は終わらない...「健彦」の名から浮かび上がる「不穏な予兆」 pixta_79652152_S.jpg

本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第23週。

いよいよ残る2週間。

積み残した課題は、暢子(黒島結菜)の店「ちむどんどん」閑古鳥問題と、賢秀(竜星涼)と清恵(佐津川愛美)、歌子(上白石萌歌)と智(前田公輝)の2組の恋の行方くらいで、そのうち2つがまとめて解決する。

「ちむどんどん」に足りないモノとして浮か上がったのが、「良い豚肉」問題で、そこに偶然、賢秀が働く養豚場の娘・清恵が来店し、暢子が試食を頼む。

美味しかったと言いつつも、欠点を問われた清恵が「強いて言うなら」と挙げたのが豚肉で、清恵がちょうど持っていた豚肉を渡す。

それは暢子が探していた皮付き豚肉だったが、その仕入れ先がわからない。

一方、賢秀の誕生日会準備が進む中、清恵と賢秀が偶然再会。

話し合いたいと言う賢秀を清恵は拒否し、逃げてしまうが、賢秀は三郎(片岡鶴太郎)に、清恵は房子(原田美枝子)に相談し、かつて思い合っていたが結ばれなかった大人世代が賢秀と清恵の背中を押すかたちで、2人を結びつける。

なぜ清恵が男に騙され、散々な目に遭ってきたという設定が必要だったのか不思議だったが、それは嘘と暴力と借金とで周りに迷惑をかけ続けた賢秀と、自身の過去を嘘で覆い続けできた清恵とが、互いに「何度でもやり直せる!」と赦し合う展開のためだった。

そして、ちむどんどんの経営が好転し、房子との約束「知り合い以外で店を満席にする」を果たしたことで、房子が来店。

約40年ぶりに再会した三郎と房子は、三郎の妻・多江(長野里美)をまじえた不思議な三角関係で盃を交わすのだ。

これまで体調不良もなく、順調そのものの妊娠期間を過ごしていた暢子が、なぜか破水もしないのに「準備」として計画的入院をすることになり、そのために母・優子(仲間由紀恵)も良子(川口春奈)も上京。

そこに賢秀が清恵と挨拶に現れ、お相手にプロポーズする前に賢秀が結婚宣言。

中身のない指輪の箱を渡し、良子らに咎められるという相変わらずのドタバタ展開の中、ギリギリまで食い意地を見せていた暢子が突然破水。

そして、男の子を出産。

比嘉家の大騒ぎの脇に追いやられ、影が薄くなっていた気の毒な父・和彦(宮沢氷魚)が名前を考えた「健彦」を発表。

そこには、勉強や運動ができなくても、金持ちになれなくても、心が健やかな子に育ってほしいという思いが込められていると打ち明ける。

なんて不吉な展開だろう。

なぜなら、この「心が健やかな子」というフレーズは、清恵に対して優子が語った賢秀像ーワガママで欲深いけど、心が健やかで真っ直ぐな子ーと重なるためだ。

こうして男たちのワガママや嘘、借金と暴力を赦す女たちという歴史が繰り返されていくのか。

ホラー映画なら、助かったと思ったラストにチラリとのぞく不穏な予兆と「to be continued」の展開が、「健彦」の名から浮かび上がる。

いよいよ残り2週間。

積み残しは歌子×智カップルの行方くらいになったが、もしかしてそこから一気に時が流れ、往年の大ヒットドラマ「ずっとあなたが好きだった」のマザコン男・冬彦Jr.が育ちつつある不穏なラストのように、健彦が「賢秀Jr.」化する展開が描かれるのだろうか。

終わりなき比嘉家の物語を想像すると、ちょっとハラハラする。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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