【ちむどんどん】描かれる「たくさんの教訓」。物語を最終回に導く"逆算の手法"で伝えたいこととは?

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「たくさんの教訓」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】モブキャラたちの苦悩が栄養!? 朝ドラヒロイン「成長の法則」

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本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第11週。

先週の二ツ橋シェフ(高嶋政伸)の退店騒動に続き、今週もまた、二ツ橋シェフの突然の両脚骨折による1カ月の入院から引き起こされる騒動が描かれる。

なぜ2週連続で二ツ橋不在という展開が繰り返されるのか。

それは、小林大児CPがインタビュー(MANTANWEB/4月10日)で「脚本チームとしては、"最終回がこうなる"ということを初めに決めてから、第1週の本を作るという新しい挑戦をしました」と語っていたように、逆算で作る手法から伝えたいテーマをあらかじめ決めて、そこに導く要素を配置するためだろう。

今週の場合、暢子(黒島結菜)に二ツ橋が伝えた「男も女も関係ない。大事なのはあなたらしさ」がキーワードで、大きなテーマは「ジェンダー」と「自分らしさ」だ。

そして、その要素として配置されたのは、暢子(黒島結菜)がオーナー・房子(原田美枝子)に指名されてシェフ代行になり、周囲の反発を受けて悩むこと。

和彦(宮沢氷魚)が東洋新聞の広告記事「おいしいご飯を作るのはお母さんの仕事」という男女の役割を固定する表現に違和感を覚えて上司とトラブルになること。

教員として復職したいと願う良子(川口春奈)が夫・博夫(山田裕貴)とその家族と衝突すること。

と同時に、周辺ではいくつものモヤモヤを描いている。

1カ月の入院どころか、先週の展開では二ツ橋は店を辞めることになっていたのだから、一度は残るスタッフ一同が引き継ぎを必死に考え、準備していたはずだ。

しかし、この混乱ぶりを見る限り、その時点では誰も我が事としてとらえていなかったのだろう。

また、ジェンダー論を熱く語る和彦の傍らで恋人・愛(飯豊まりえ)が甲斐甲斐しく料理を取り分け、それに対して誰も礼を言わないこと。

女性が社会との接点を持ち、自立することは重要だが、良子が先生をやっていた時代には子どもたちのことで心を砕く描写はなく、恋バナばかりが関心事の大部分を占めていたこと。

制作側が意図しているのかは不明だが、ここにはたくさんの教訓がある。

人は尻に火がついた状況で初めて問題をリアルにとらえること。

高い理想を掲げても、生活・経験に結びつくまでは机上の空論・絵にかいた餅に過ぎないこと。

失って初めて大切さがわかることなど......。

「男も女も関係ない。大切なのは自分らしさ」として、賢秀(竜星涼)は力持ちという特性を生かして重い荷物を持ち、智(前田公輝)は体力・人脈を駆使して暢子のためにズッキーニを調達。

博夫は実家を説得できていないものの、比嘉家に住んで教員として復職する良子のもとに通いながら話し合いを続けているらしい。

大事な話し合いの過程などは描かれず、ナレーションでさらりと説明されるのは残念だが、それぞれの問題が完全に解決ではないものの、暢子の長所「ありがとうとごめんなさいを言えること」でいったんは落としどころを見つける。

実際、誰もが未熟で矛盾だらけで、他者の思いや背景・事情を本当の意味では理解できないことばかりだが、相手の言葉に耳を傾け、「ありがとうとごめんなさいが言えること」は人と人が一緒にいるために最も重要なのかもしれない。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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