【ちむどんどん】恋愛編スタート! 「過程」は描かれなくとも"恋の表情"を見せる役者たちの凄み

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「恋愛編の描き方」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】描かれる「たくさんの教訓」。物語を最終回に導く"逆算の手法"で伝えたいこととは?

【ちむどんどん】恋愛編スタート! 「過程」は描かれなくとも"恋の表情"を見せる役者たちの凄み pixta_20974938_S.jpg

本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第12週。

今週は暢子(黒島結菜)の恋愛編。

本来であれば、わかりやすく「ちむどんどん」して良い週だ。

しかし、まさかの実質1週間かけて暢子が和彦(宮沢氷魚)に、おそらく和彦も暢子に対して抱く自身の恋心に気づくという超スロー展開。

それでいて、そのきっかけは、和彦と愛(飯豊まりえ)に結婚の話が出ていることを暢子が知ったことと、暢子と智(前田公輝)がデートしているのを和彦が見たこと。

2人は互いにモヤモヤした思いを抱え、口論し、和解した後、和彦と愛が抱き合い、キスしそうなところを暢子が目撃し......という、わかりやすい発動(発情?)条件で自覚に至るのだ。

これまで「あまゆ」で4人が一緒にいる描写はたくさん出てきたが、暢子×智イチャイチャを寂しげに見つめていたのは歌子(上白石萌歌)のみだった。

そのときについでに和彦の複雑な表情を抜いておいても良かったのではないか。

また、4人でいるときに、暢子×智、和彦×愛という2セット固定でなく、暢子と愛、和彦と智でそれぞれガールズトーク、ボーイズトークで勝手に盛り上がってしまうシーンがあったり、ときに暢子たちきょうだいと和彦がかつて木箱で文通していた「二人だけの共有の思い出話」で盛り上がってしまって、そこで部外者となる愛と智が疎外感を覚えたりするシーンがあるだけで、「恋に奥手で鈍感」同士の当事者二人より先に周囲が二人の特別な関係性を察してしまう切なさも描かれ、ずっと「ちむどんどん」しそうなものなのに。

しかも、2人の恋心のボタンを押す装置にされているのが、自分の思いを一度も伝えることがないままに、暢子と一緒になるために独立すべく、がむしゃらに働き、過労で倒れる「独りよがりの智」だ。

一時は学校に行かず、幼い弟妹を養うために病気の母にかわって豆腐屋を営んでいた智が、まさか暢子ばかりを追いかけ、実家を顧みることもない暢子のイエスマンになるとは。

その後、弟妹は全く登場していないだけに、豆腐屋がどうなっているかが気がかりだ。

それにしても、役者というのは凄いと思わされるのは、「過程」の描写がスルーされていても、暢子も和彦もそれぞれ恋をする表情になり、目が潤んでいること。

それだけに不意に発情しているような印象が生まれ、SNSでは「ちむどんどん」とセットで「気持ち悪い」とたくさん呟かれることになってしまったのは役者冥利に尽きるのか、それとも気の毒なことなのか。

そして、今週もまたSNSでは「今気づいたなんて、ありえん」「まさかや!」「まだ恋愛編が続くわけさ」といった声が溢れていた。

多くの視聴者が苛立ち、怒りつつも「ちむ語」で語っているという、特殊な「共同体」の中での特殊な愛され方をしている作品となっている。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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