【ちむどんどん】ああ、お前もか...。ヒロイン至上主義の中で惜しまれる「良識派」の愛と善一の離脱!?

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「良識派の離脱」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】複数の作画が入り混じる!? 視聴者の「難解な物語」の楽しみ方とは?

 【ちむどんどん】ああ、お前もか...。ヒロイン至上主義の中で惜しまれる「良識派」の愛と善一の離脱!? pixta_57796164_S.jpg

本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第14週。

今週の「悲報」は「善一(山路和弘)、お前もか......」。

和彦(宮沢氷魚)と愛(飯豊まりえ)の結婚話が進む中、和彦への恋心を自覚した暢子(黒島結菜)は、和彦を諦めることを決意。

一方、智(前田公輝)は暢子の気持ちを確認もせず、独立したら暢子と結婚すると決め、優子(仲間由紀恵)に暢子との結婚の許可を求めていたかと思えば、今週は沖縄県人会の遠足での相撲大会で優勝したら暢子にプロポーズすると宣言。

それをあまゆの主人(藤木勇人)がニコニコの"無邪気攻撃"で周りの人たちにペラペラ話し、結果的に外堀から着々と埋め、相手を追い込んでいく。

一方、智が暢子にプロポーズすると知った和彦は、ここに来てようやく暢子への恋心を自覚し、相撲大会で奮闘。結局、智が優勝し、和彦は病院へ......。

しかし、智のプロポーズを「友情」と断じ、和彦が好きなのか聞かれると、料理に集中したいと言い訳する暢子。

告白されていなかったとはいえ、智の気持ちにはとっくに気づいていたのだから、それとなく断わる時間はいくらでもあっただろうに。

気の毒なのは、暢子と智の結婚話を知り、奮起する和彦を寂しげな表情で見ていた愛だ。

和彦から、6年も付き合ってきたのに突然「全部なかったことにしてくれ」と言われ、それでも怒りや憎しみを向けるわけでもなく、あらかじめ別れを決意して書いた手紙を和彦に渡し、パリに転勤する。

愛が自分から別れを決意したという形式を踏むことで、暢子も和彦も自分を責めずに済む上、ファッションの特集記事を暢子らに協力してもらったことで、「暢子ちゃんのおかげで自分が本当は何をやりたくて、何にちむどんどんするか、はっきりわかった」と言わされ、暢子たちに感謝して旅立つことにされる。

お手本のようなヒロイン至上主義の物語である。

しかも、「誰よりも優しい」と愛が言った和彦は、暢子と智の結婚を見るのが嫌だという理由で、下宿を去ろうとするが、暢子が智と結婚しないと知ると、秒でそれを撤回。

6年付き合った彼女と別れた直後に、暢子に告白するという人でなしぶりを発揮する。

ところが、そこに優子と善一との再婚話が舞い込み、暢子は「タイム!」と言い、やんばるに戻ることに。

フォンターナはスタッフ3人が一気に退職して大変な状況のはずなのに、母の再婚話で躊躇なく即座に帰省を決める暢子の姿は、智をふった理由「料理に集中したい」が単なる口実だったことを明確に示していた。

この優子の再婚話も、大叔父・賢吉(石丸謙二郎)が善一に話もせず、独りよがりで暴走して優子に勧めたものだったが、困惑した優子が善一と話をしに行くと、善一はここぞとばかりに優子にプロポーズ。

それを冗談と流す優子は、「友情」として智のプロポーズを断る暢子そっくりだし、善一がにわかに優子への恋愛感情をむき出しにしたことで、これまで比嘉家に対してしてくれてきたすべての親切・善行が、下心によるものになってしまった。

ああ、善一よ、お前もか...。

ちなみに、今週は唐突にフォンターナにリゾットを食べに来る西郷親子の話もあった。このエピソードがなかなか強烈だ。

亡き妻の思い出の詰まった、家族にとって大切な店に、再婚したい相手をいきなり連れて行く父の無神経さよ。

座り位置も、隣り合うのが距離の近い「身内」で、対面に客人や遠い関係性の人が来ることが多いだろうに、再婚相手と隣り合って一対として座り、娘と対面する形をとる時点で、父の心はすでに娘より恋の相手のほうに近いことが見えて、なんだか切ない。

しかも、その相手は、妻の闘病していた病院の看護師という生々しさ。

さらに、娘が母親を忘れられないと言うと、母のことをよく知りもしない父の再婚相手に「忘れないでください、お母様のこと。とっても素敵な方でした」と、なぜか上から目線で言われる切なさ。

ゲストキャラも含めて無神経な人々が多い中、視聴者の多くが共感する「良識派」の愛と、恋によって道を外れた善一の離脱が、なんとも惜しまれる。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

PAGE TOP