「ウクライナの人たちを助けたい」医師・鎌田實さんの思い

定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「ウクライナの人たちを助けたい」です。

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ウジホロドでの食事風景

いかなる戦争にも反対する

「まさか、むき出しの暴力の時代に逆戻りすることはないだろう」

そんな多くの専門家の予想を裏切って、2月24日、ロシア軍がウクライナへの侵攻を開始しました。

その後、息をつく間もなく、ロシア軍は掌握地域を拡大。

テレビ塔や市役所、市民の暮らすアパートメント、文化施設、病院...美しい町が無残に破壊され、子どもを含む多くの市民が命を奪われています。

非人道的な破壊行為を、とても許すことはできません。

なかでも気になるのは、ロシア軍がすぐにチェルノブイリ原発やザポロジエ原発を制圧したことです。

プーチン大統領が侵攻の口実としている「ウクライナの核武装阻止」を、正当化したいという魂胆なのでしょう。

しかし、戦闘下で全電源喪失や設備の破壊があれば、取り返しのつかない惨事になる可能性もあります。

チェルノブイリの悪夢は二度と繰り返してはならないのです。

国際的人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、クラスター爆弾も使用された可能性を報告しています。

国際刑事裁判所は、ロシア軍の非軍事施設や住宅地への無差別なミサイル攻撃などは、ジェノサイド(大量虐殺)の罪に当たるのではないかとして捜査を開始しました。

戦争犯罪と人道に対する罪を明確にすべきだと思います。

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ウクライナ避難民の子ども(22年3月)

二度、避難を余儀なくされる人たち

ウクライナ侵攻のニュース映像を見ながら、かつて出会ったウクライナの人たちの顔が脳裏に浮かび、胸が締め付けられました。

ぼくがウクライナとかかわるようになった経緯を少しだけ紹介します。

1986年4月、チェルノブイリ原発事故が起き、「子どもたちに白血病や甲状腺がんが増えている。助けてほしい」という支援要請がありました。

それを受け、91年1月、ロシア・ウクライナ・ベラルーシを視察・調査。

日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)を設立することになりました。

以来、101回の医療訪問団をウクライナやベラルーシに派遣し、小児がんや小児白血病の診断と治療、新生児支援に取り組んできました。

放射線汚染から子どもたちの命と健康をどう守るか。

その経験がまさか日本で役立つことになるなんて、まったく想像していなかったことです。

福島第一原発事故後、自分の町に帰ることができなくなった人たちに、どんな希望のかたちを示すことができるのか、その答えを求めてウクライナやベラルーシを訪ねました。

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チェルノブイリ原発4号炉(2010年)

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チェルノブイリ原発内部(13年)

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キエフ独立広場にて(14年)

2013年12月、被災者市民団体ゼムリャキの人たちと会いました。

彼らは、原発30km圏内から強制移住を強いられ、キーウ(キエフ)郊外に集団移住をしてきた人たちです。

日本から来たと伝えると、とてもあたたかく迎えてくれ、福島の人たちのことを心から心配してくれました。

原発事故で住み慣れた町を泣く泣く去らざるを得なかった人たちが、今度はロシア軍の侵攻によって、再び平穏な日常を奪われようとしています。

こんなことがあっていいものでしょうか。

真っ先に苦しめられる女性や子ども

キーウの北西側にあるナロジチ地区の子ども病院も訪ねました。

ナロジチも、年間5ミリシーベルト以上の強制移住地域となった地区でした。

幼くして病と闘うという過酷な運命にもかかわらず、明るい笑顔を向けてくれたのが印象的でした。

現在に時間を戻してみます。

ニュースで、避難することができない小児がんの子どもたちの姿が報じられました。

医療供給がストップするということは、病気の子どもたちにとっては、爆弾が落ちるのと同じくらい危険なことです。

ぼくはイラクでも、シリアの難民キャンプでも、そんな子どもたちを診てきました。

ウクライナでこんな悲劇を繰り返してはいけないのです。

ロシア軍の攻撃で町が壊され、スーツケース一つだけ抱えて逃げてきた女性や子ども、歩くのもおぼつかない高齢者。

犬や猫などペットを連れている人もいます。

戦闘が続く東部のハリコフから3人の子どもたちと逃れてきたという女性は「激しい砲撃を受けたため車で逃げましたが、途中でガソリンがなくなり歩いてきました」と話していました。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によると、4月4日時点で、国外に逃れた人は420万人を超えました。

ウクライナ難民に手を差し伸べたい

ウクライナ西部の都市ウジホロドで避難者の支援を行っているボフダン・サブーラ神父の話では、スロバキアに逃れようという車で国境付近が渋滞しているとのこと。

また、教会の施設や幼稚園で受け入れている避難者が約300人にのぼり、日々増え続けているということでした。

JCFでは、サブーラ神父と協力し、ウクライナの難民、避難民の支援に取り組んでいます。

オンラインで打ち合わせを行い、現地の状況を確認しながら、その時点で必要な支援を心がけています。

食料や衣料、毛布などのほか、子どもたちが何かほっとするようなものを買って配布してください、とお願いしています。

また、これまでの活動でつながりのあるポーランド在住の日本人に募金を送り、避難している子どもたちにランドセル、学用品、靴、おもちゃを提供し、喜ばれています。

応援をよろしくお願いいたします。

《カマタのこのごろ》

ぼくは、昨年、JCFに1%遺贈すると宣言しましたが、今すぐ役立ててもらおうと、生前寄付をしました。それを原資に、ロシアのウクライナ侵略反対を訴え、ウクライナ避難民に手を差し伸べ始めました。今年の3月11日、東日本大震災から11年目の日に、福島の南相馬の絆診療所から、多額の寄付がJCFに送られてきました。「避難しているウクライナの人たちの辛さ、苦しさがよくわかります。今度は応援させてください」。善意の連鎖が起きています。

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絆診療所の遠藤院長と。

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<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

支援の窓口はこちら

日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)ホームページ

電話:0263-46-4218

 

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この記事は『毎日が発見』2022年5月号に掲載の情報です。

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