医師・鎌田實さんが考える「子どもや孫の世代のために、何かを残す」喜び

定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「次世代に伝える喜び『ジェネラティビティ』」です。

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紙芝居は日本生まれの文化

子どものころ、公園やお寺の境内に紙芝居のおじさんがよく来ていました。

ソースせんべいや水あめを食べながら「黄金バット」や「怪人二十面相」にわくわくし、女王に殺されそうになる「白雪姫」にハラハラしたことを覚えています。

語りと絵が一つに溶け合って進行していく紙芝居は日本生まれだということをご存じでしたか?

今や「Kamishibai」としてアジア、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなど世界の37カ国に広がっています。

ぼくは、そんな紙芝居に魅せられた一人です。

4年前、イソップ童話の「アリとキリギリス」をベースにした『かまた先生のアリとキリギリス』(絵・スズキコージ、童心社)を出しました。

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『かまた先生のアリとキリギリス』(脚本・鎌田實、絵・スズキコージ、童心社)の表紙。

「働かざる者食うべからず」という教訓めいたお話を、鎌田流に友情と夢の物語にしました。

「遊びほうけていた」ように見えるキリギリスの音楽にかける情熱と、夢に向かって人知れず努力する姿を描きました。

そう、人にはいろんな生き方があるということです。

愚かさに気付いた王様の第二の人生の物語

その紙芝居の2作目がこのほど出来ました。

『かまた先生のはだかのおうさま』(絵・松成真理子、童心社)です。

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『かまた先生のはだかのおうさま』(脚本・鎌田實、絵・松成真理子、童心社)は2月に刊行されました。

物語は、アンデルセンの「裸の王様」。

「馬鹿者には見えない」という"すてきな衣装"を着てパレードした王様は、「王様は裸だ」という子どもの言葉で、自分の愚かさに気付きます。

ここまではよく知られたお話ですが、鎌田版の紙芝居では、ここから新しい物語が始まります。

詐欺師の言葉にだまされた王様は、自分が王様にふさわしくないと悟り、賢く、国民思いの弟に王座を譲ります。

そして、自分は新しい生き方を探すため、旅に出るのです。

「好きなこと」にこだわる

でも、生まれてこの方、お城の中で暮らしてきた元王様は、これからどう生きていったらいいのか迷ったことでしょう。

そんなとき、「自分の好きなこと」が手がかりになりました。

洋服が好きな元王様は、洋服を作る会社をはじめました。

そして、好きなことをしながら、人の役に立つことをしたいと考えました。

元王様は、貧しい暮らしをしている子どもたちが洋服を持っていないことに気付き、子どもたちのために洋服を作りはじめます。

紙芝居の最後は、洋服をもらった子どもたちが「裸の王様、バンザイ!」とたたえます。

人の役に立つことは健康にもよい

ぼくはこの紙芝居を通して、子どもたちに「正直であること」「見えないものは見えないと言える勇気を持つこと」「人それぞれに生きる道があること」の3つを伝えたいと思いました。

そして、大人には、第二の人生はいつだってはじめられる、そのときは好きなことをして、人の役に立つことをしよう、そんなメッセージが伝わればいいなと思います。

1作目の『かまた先生のアリとキリギリス』は、紙芝居の賞、五山賞の特別賞を受賞しました。

その授賞式で、紙芝居のボランティアをしている中高年の人たちと出会いました。

学校に出向き、平和や命の大切さを伝える紙芝居を読んで、子どもたちと議論しているとのことです。

すばらしい活動だと思いました。

こうした活動は、健康にもよいことがわかっています。

マウントサイナイ医科大学の研究では、人の役に立つ活動は心臓病を少なくし、寿命を長くすると発表しています。

また、人の役に立っている自分を意識すると、心も元気になります。

脳内に快感ホルモンのドーパミンが分泌され、人生の満足度も高まるのです。

どんぐりとジェネラティビティ

『かまた先生のはだかのおうさま』の絵は、絵本作家の松成真理子さんが描いています。

松成さんは、『まいごのどんぐり』(童心社)という絵本で、児童文芸新人賞を受賞しました。

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松成真理子さん作の『まいごのどんぐり』(童心社)。

少年はどんぐりが大好きで、名前をつけて大切にしていました。

そのどんぐりが林の中で迷子になってしまいます。

やがて少年は成長して大人になりました。

どんぐりも土に根を張り、枝を伸ばしていました。

"ふたり"が再会したとき、どんぐりの木はうれしさで枝や葉っぱをざわざわゆすって、どんぐりの実をたくさん落としました。

成長していくなかで離ればなれになっても、"ふたり"の絆はずっと残っている。

そんな心あたたまる物語です。

発達心理学者のエリクソンは、「ジェネラティビティ」という言葉を作りました。

中高年になると若いころよりも成長や発達がなだらかになり停滞感が強くなります。

この停滞感を打ち破るカギが、ジェネラティビティだといいます。

その意味は「次世代の価値を生み出す行為に積極的にかかわっていく」ということ。

簡単に言い換えるなら、子どもや孫の世代のために、どんな"どんぐり"を残すことができるか、ということだと思います。

長く続くコロナ禍で、世の中自体が重く停滞していますが、次世代の子どもたちのために手を差し伸べられる大人が増えると、社会はもっと明るくなっていくように思います。

そんなコロナに負けない社会を作っていくためにも、まず自分に合った生き方を探しながら、ほんの少しでも、子どもたちのためになることができたらいいですね。

《カマタのこのごろ》

2月に「徹子の部屋」(テレビ朝日系列)にゲスト出演しました。『図解 鎌田實医師が実践している認知症にならない29の習慣』(朝日出版社)にそって、コロナ禍で心配される体や認知機能の衰えをどうしたら防げるか、認知症予防のコグニサイズなどを実演しました。早口が得意な黒柳さんが、口腔フレイルを防ぐ「パタカラ運動」に挑戦しました。

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<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

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60代からはソロで生きる ちょうどいい孤独

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新型コロナウイルスにより、人々や社会の価値観は大転換する。災害も含め苦難の多い時代、それでも、私たちは幸せになれる。コロナに負けない生き方、新しい幸福の形とは? 第2波、第3波、そして災害への心の準備は万全ですか?

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「速遅(はやおそ)歩き」「青魚、えごま油、高野豆腐を食べる」「新聞から4つの単語を選ぶ」など、無理なく日常生活で実践できる習慣がわかりやすく解説されています

この記事は『毎日が発見』2022年4月号に掲載の情報です。
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