毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「安子を取り巻く、それぞれの恋心」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】たくさんの回想シーンとともに...「日なたの道」に向かい見出された"一筋の光"
ラジオ英語会話を軸に、朝ドラ史上初の3世代ヒロインが駆け抜けた100年の人生を描く、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の8週目。
今週は安子(上白石萌音)に父や祖父が教えた「たちばな」のあんこを美味しく炊くおまじない「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」が、様々な場面で様々な人の心を打つ。
出征した兄、サンタならぬ算太(濱田岳)がクリスマスに戻ってくる。
雉真家に身を寄せることになった算太が触れたのは、朝、安子(上白石萌音)が唱える「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」とあんこを炊く香りだ。
嗅覚・聴覚で、故郷に帰ったことを改めて実感する算太。
しかし、算太は「死んだ親父が何を思おうと知ったこっちゃねえ」などと強がる。
そんな、心の傷を癒やしてくれたのが、長男・稔(松村北斗)を戦争で失い、かつてはやり場のない怒りを嫁・安子にぶつけていた美都里(YOU)だった。
「生きてるだけでええんじゃ」と優しく算太を抱き締める美都里。
感情をありのまま表現する少女のまま大人になったような美都里が、皮肉にも深い悲しみを知ったことで「母の顔」を見せた瞬間だった。
そこからおはぎを売りに出る安子を優しく見送り、孫・るいと共に、かつて「ちいせえ町のちいせえ店」と見下していた安子の作る「たちばな」のおはぎを口にする。
それは稔が夏休みの帰省時に買って来てくれたものでもあった。
涙を見せる美都里の頭をそっと優しく撫でるるいは「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」と呟き、食べた人を笑顔にするおまじないだと教える。
野球にしか興味がなかった次男・勇が、野球で培ったチームワークにより、会社を盛り上げるようになると、完全に優しい面持ちになった美都里は、まもなくこの世を去る。
そこから、勇の思いに気づいていた千吉が、安子との結婚を勧めるのだが、勇に思いを寄せる女中・雪衣(岡田結実)は嫉妬のあまり、安子と居候をする算太への怒りをぶちまける。
女中の立場で、勇と思い合っているわけでもなければ、安子のように幼い頃からの歴史があるわけでもないのに、亡くなった雉真家の長男を「稔さんいう人」呼ばわりし、算太はともかく安子に出て行けという雪衣の行き過ぎた態度にはなかなか引く。
しかし、普段は冷静で気が利く雪衣が、こんな理不尽なキレ方をするぐらいに恋は人を狂わせるということだろう。
一方、安子は、ロバートと再会。
英語教室をやることになった彼の英語のテキスト作りを手伝い始める。
その作業の傍ら、おはぎを食べ、その美味しさの秘訣が「おいしゅうなれおいしゅうなれ」のおまじないにあると、るいから聞いたロバートは、それを英語に翻訳する。
安子にとって馴染みの「おいしゅうなれ」が英語になることで、また違う色を持ち、どこまでも連れて行ってくれそうな力を与えてくれた。
しかし、その頃、父に背中を押され、雪衣にも励まされた勇は、進駐軍との野球の試合で勝ったら安子にプロポーズすることをひとり心に決めていた。
かつては恋敵の兄に対抗し、甲子園に出たら安子に告白する願掛けをしていたが、戦争で甲子園大会は中止。
今度は「進駐軍に勝ったら」の願掛けをし、試合には勝つが......。
しかも、間の悪いことに「おいしゅうなれ」のおまじないの最中に割り込んで、唐突にプロポーズする勇。
勇の思いなどおそらく意に介さず、野球の応援に来ることもない安子が、英語を介してロバートとどんどん距離が縮まっていく様子の対比は、あまりに残酷だ。
報われない思いがやけに似合う村上虹郎。
そろそろ幸せになってほしいと願う視聴者の思いを一身に受け、壮大な2回目の失恋フラグで迎える次週ははたして?
文/田幸和歌子