【カムカムエヴリバディ】朝ドラ理想の初恋相手? 松村北斗さん演じる雉真稔の「昭和の正統派王子」感

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。2週目は「朝ドラ理想の初恋相手」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】初週から「白飯+味噌汁」のような安心感! だからこそ新鮮に映ったのは?

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ラジオ英語会話を軸に、朝ドラ史上初の3世代ヒロインが駆け抜けた100年の人生を描く、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。

2週目は、ヒロイン・橘安子(上白石萌音)の初恋の甘酸っぱさ、切なさ、間近に迫りつつある戦争の影が描かれた。

笑いあり涙あり、感情大忙しの物語において、2週目ですでに安子の「おぼこい」可愛さと、幼馴染・勇(村上虹郎)の兄で、安子が思いを寄せる稔(松村北斗)の「昭和の誠実・正統派王子」感は突出している。

近年の朝ドラにおいて、ここまで完璧な初恋相手は実に珍しい。

しかも、『ちりとてちん』をはじめとした、愛すべきダメな人たちが多数登場する藤本有紀脚本では、なおさらだ。

まず聡明さ、育ちの良さ、優しさと、「学生服」が実に似合う古風で素朴で誠実そうな昭和的な香りは、朝ドラの相手役として一つの理想形だ。

しかも、安子に英語、喫茶店、コーヒー、ジャズと、知らなかった世界を教えてくれた人であり、夏休みの間、自転車に乗れない安子の練習に付き合ってくれていた人でもある。

岡山にいる安子と、大阪の大学で学ぶ2人の交流が文通というのも、初々しくて良い。

しかし、戦争の影響で砂糖が配給制になったことから、和菓子屋「たちばな」が打撃を受け、ある日、安子に砂糖会社の息子と「政略結婚」の話が持ち上がる。

家族を思う安子は、おそらく稔への思いを断ち切るために「かならず今日中に帰ります」と書き置きし、大阪へ向かう。

そこで会えた稔には「配達」と嘘をつき、一緒に映画を観て、食堂に行って、川を見て......やっぱり縁談のことは言えない。

家族にも、恋する相手にも本当のことを言えず、帰りの汽車で一人すすり泣く安子だが、そこで声をかけたのが、大阪で見送ってくれたはずの稔だった。

実は稔は小さなカバンひとつで配達はおかしいと気づいていたが、それを言葉にはせず、それでも安子の様子が気になって、急行に飛び乗り、追いついたのだった。

しかも、そこから安子の家に一緒に行き、正面から交際を認めて欲しいと安子の家族に伝える誠実さ。

しかし、そこで彼が雉島家の跡取りであること、兄が家を出たたちばなにとっても、安子しかいないという現実がのしかかってくる。

さらにこの切ない初恋を盛り上げるのが、弟・勇の存在だ。

なぜなら勇は幼い頃から安子を「あんこ」と呼んで挑発したり、まだラジオを知らなかった安子に家にあると自慢し、聞かせてやろうかと言ったり、野球仲間を引き連れてたちばなに来て菓子を振る舞ったりと、実に子どもらしい不器用なアプローチをしてきたからだ。

しかし、安子が稔に自転車を教えてもらっている姿を目撃してから、その思いに気づき、稔と祭りに行ってウキウキする安子の思いを挫く言葉を投げかけたこともあった。

また、両親の期待を背負い、安子にも思いを寄せられる兄に勝てるとしたら野球だけという思いから、ひたすら甲子園を目指して頑張って来たにもかかわらず、戦争により、大会は中止に。

長い睫毛と水分量の多そうな印象的な瞳の村上虹郎には、報われなさが良く似合う。

それにしても、初恋相手が王道で正統派であればあるほど、不安や悲しさが大きくなる不思議。

これは本来、トリッキーな技を得意とする藤本有紀脚本だからこその巧さだろう。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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