毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載を毎週お届けしています。今週は「見出された"一筋の光"」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】これは単なる「姑の嫁いびり」なのか? あまりに切ないそれぞれの喪失感
ラジオ英語会話を軸に、朝ドラ史上初の3世代ヒロインが駆け抜けた100年の人生を描く、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の6週目。
戦後、ようやく希望を感じ始めた安子(上白石萌音)と娘・るいの大阪での二人暮らしが、事故により破綻した先週だったが、今週は長いトンネルから「日なたの道」に向かって、一筋の光を見出すまでが描かれる。
その軸にあったのは「英語」だ。
岡山に戻った安子は、雉真家で不自由のない生活を送るようになるが、心は晴れない。
そこで、おはぎを作り売り始めるが、千吉(段田安則)にるいを連れて行くことを反対され、一人商いに出るようになる。
そして、家に残されたるいは自らラジオ「カムカム英語」を聴こうとするのだが、美都里(YOU)に「ごめんね、るい。おばあちゃん、聴きとうねえんじゃ。稔(松村北斗)を殺した国の歌は」と言われ、ラジオの電源を落とされてしまう。
母とおはぎを売る楽しみも、母と毎日聴くラジオも取り上げられてしまったるい。
ところが、安子はるいに自分がなぜカムカム英語を聴くのかと尋ねられても答えることができないでいた。
その「答え」に向き合わせてくれるのが、米軍将校ロバート(村雨辰剛)だ。
安子は通りがかりに英語が通じず困っているロバートを見かけ、とっさに通訳を買って出たのだった。
後日安子と再会したロバートは安子を彼のオフィスに招く。
ラジオを聴いていただけとは思えない安子の流暢な英語に驚いたロバートは、そのモチベーションを尋ねるが、そこで安子が英語で語ったのは、稔との思い出だった。
英語は、稔が安子に教えてくれたものであり、娘・るいの名が、喫茶店で聞いたルイ・アームストロングの「On the Sunny Side of the Street 」に由来していること、「日なたの道を歩いてほしい」という稔の願いが込められていたこと、また、それを安子は誰にも言えず、「敵国」の音楽をこっそり子守唄に歌っていたことを話す。
しかし、稔は戦争で命を落とし、それでも自分は今も彼の命を奪った国の言葉を一生懸命学んでいる。
なぜ?
自身の思いを言葉にせずに飲み込んできた安子の中で、稔の死への悲しみや憎しみ、様々な感情が堰を切ったように溢れ出した瞬間だった。
初めて本心をさらけ出すことができたのは、「敵国」の将校の前だから、そして「英語」だったからではないか。
その悲痛な思いを聞いたロバートは、安子を豪華絢爛な進駐軍の将校クラブに連れて行く。
貧しい暮らしを強いられてきた日本人と「戦勝国」の対比は、あまりに残酷だ。
しかし、そんな豊かな国のロバートもまた、戦争で妻を亡くしていた。
それでも、彼にとっての「敵国」日本で街の復興に携わるのは、亡き妻との縁が日本にあったからという。
「私にとって英語を勉強することは夫を思うことでした」
――本当はずっとわかっていた安子の中の答えと向き合わせてくれたロバートは、稔の「日なたの道を歩いてほしい」が安子への願いでもあったはずだと語る。
その葛藤は、喫茶店「Dippermouth Blues」の店主で、戦争から戻らぬ息子(前野朋哉)を思いつつ、アメリカ人たちを楽しませるために働く定一(世良公則)の思いと重なる。
そして、将校クラブで定一が歌った「On the Sunny Side of the Street」は「敗戦国」と「戦勝国」を分かつことなく包み込むのだった。
たくさんの回想シーンが積み重ねられた先に見えた「日なたの道」。
その一方で、るいの中に芽生えた複雑な思いや、安子との間に生まれつつある溝も気になる第6週だった。
文/田幸和歌子