定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「"手抜き"ごはんで、がんばらない健康づくり!」です。
手抜きだけど健康にいい料理を作っているところ。
タンパク質と野菜、不足していませんか?
食べることは健康の基本です。
特に、高齢になっても元気で動き回れる体を作るには、運動とともに、食が大事なカギとなります。
筋肉や骨の元となるタンパク質をしっかり取り、抗酸化力のある野菜を取って、老化を進める「慢性炎症」を防ぐことがとても大切なのです。
しかし、多くの日本人はタンパク質も、野菜も不足しがち。
加齢とともに筋肉が減少していくサルコペニアや、骨粗鬆症、フレイル(虚弱)などの問題が生じ、要介護状態へとつながっていくのは大きな問題です。
年を取って、「ちゃんと食べる」にはコツがいる
高齢者の食の問題の背景にあるのが、食べる量が減るといった生理的な要因です。
また、夫婦二人や一人世帯になり、栄養バランスのよい食事を用意できなくなるという環境的な要因も出てきます。
読者のみなさんも、若いときには家族のために毎日、食事を用意してきたけれど、年とともにおっくうになってきたという人も多いのではないでしょうか。
それは自然なことです。
何もかも若いときのようにがんばる必要はありません。
大切なのは、がんばらなくても、ちゃんと食べ、健康な体を作ることです。
そのための提案として、『医師が考える楽しく人生を送るための簡単料理鎌田式健康手抜きごはん』(集英社)という本を作りました。
缶詰や瓶詰、冷凍食品、カット野菜、スーパーやコンビニのお惣菜などを上手に活用する、包丁・まな板を使わない、電子レンジだけといった"手抜き"のコツと、タンパク質や野菜を取るための工夫を紹介しています。
きっかけは、仮設住宅の寒々しい食事風景
ぼくが高齢者の食に危機感を持つようになったのは、被災地支援をしているときでした。
東日本大震災の後、福島県南相馬市にある仮設住宅を訪ねると、家族を亡くしたという男性が一人で暮らしていました。
狭い仮設住宅、こたつの上にポツンとサバ缶の食べ残しが置いてありました。
冷たいままのサバ缶を数回に分けて食べているのでしょう。
なんとも、寒々しい食事風景だなと感じました。
台所や冷蔵庫を見せてもらうと、フライパンがあり、キャベツがありました。
包丁はなく、果物ナイフだけ。
同行した管理栄養士がアドバイスをしながら、次のような料理を作りました。
キャベツの葉を手でちぎってフライパンに敷き、その上にサバ缶を汁ごと入れて、ふたをして数分でできる蒸し煮です。
さっそく男性に食べてもらったところ、「うまい、これならオレでもできる」と好評でした。
この管理栄養士さんは、仮設住宅の狭い台所でもフライパンひとつでできるメニューを1000近く考案。
仮設住宅に出向いて、広めてきました。
今回の本でも、コンビニの食品などを上手に活用したメニューを考えてくれています。
タンパク質は、肉や魚以外からもこまめに取る
高齢者には一日60gのタンパク質を推奨しています。
けれど、95歳までピンピン生きたい、元気に動き回れる筋肉を持ちたいと思ったら、体重に1・2をかけたグラム数のタンパク質が必要といわれています。
たとえば、体重が70kgの人は、タンパク質は84gという計算になります。
これは、けっこう大変な量です。
おおまかな計算ですが、タンパク質約20gを取れる食品は、鶏ささみ100g、鶏むね肉100g、さけ1切れ、サバ1切れ...。
単純に考えると、毎食、肉か魚のどちらかを食べるようにすると、1日で60gのタンパク質を取れる計算になります。
ただ、毎食、肉料理か魚料理を作るのも大変。
そこで、牛肉大和煮缶と高野豆腐で作る「肉豆腐」がおすすめです。
缶詰の汁を高野豆腐に吸わせるとちょうどいい味になります。
これが牛肉大和煮缶と高野豆腐の「肉豆腐」。
【肉豆腐の作り方】
(1)牛肉大和煮缶の肉と、高野豆腐、カットしめじ、カットごぼう、カット小ねぎを耐熱容器に入れる。
(2)缶に残った汁に、水大さじ2、チューブのおろし生姜1cm、カット長ねぎ大さじ1を混ぜて、(1)に回しかける。
(3)ラップをふんわりかけて、電子レンジ(600W)で2分加熱。すばやく高野豆腐や野菜の表裏を返して、もう一度ラップをかけて、余熱で3分ほど蒸らして、出来上がり。
この「肉豆腐」のおすすめの理由は、これだけでタンパク質が40gも取れるところ。
半分はおつまみに、半分はごはんの上にのせて丼にしてもおいしいです。
そのほか、木綿豆腐1/2丁は約10g、納豆1パック約8g、卵1個6g、牛乳200mlで7g、高野豆腐20gで10gのタンパク質が取れます。
肉や魚以外にも、これらの食品からこまめに取るようにすると、目標の量を達成しやすくなるでしょう。
自分で作れば、食や健康にも関心がわく
『鎌田式健康手抜きごはん』は、いろんな方から「作ってみました」と反響がありました。
朝日放送テレビの道上洋三さんは、ラジオでこの本を紹介してくれただけでなく、レンジで作る豚キムチを作ってみたそうです。
ぼくの息子も、この本を見て、初めて料理を作りました。
二人の子どもが買い物につきあってくれ、後片付けの皿洗いも手伝ってくれたと話してくれました。
高齢者だけでなく、進学や就職で初めて一人暮らしをする若者、家事の時間がないという働く世代にも、役立ててもらい、健康ごはんを意識してもらうことは大切です。
そして、これまで料理に時間も手間も費やしてきた人たちには、少し肩の荷を下ろして、趣味や運動など、人生を楽しむための時間を増やしてもらいたいなと思っています。
冷凍ほうれんそうと冷凍ブロッコリーも使いやすい食材です。
【カマタのこのごろ】
ときどき不整脈があったため、大事をとってアブレーションという治療を行いました。無事成功して、鎌倉円覚寺や山形での講演を再開しています。元気です。