新たに国内で2つの世界遺産が誕生! いつか行ってみたい...世界遺産を観光することの意義とは?

青森県青森市の三内丸山遺跡など17の遺跡で構成される「北海道・北東北の縄文遺跡群」と、多様な生物が生息する「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」がこの7月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)によって世界遺産として登録されました。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いたら...いつか行ってみたいと思う人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、JTB 総合研究所 主席研究員の河野まゆ子さんに「世界遺産を観光することの意義」について伺いました。


新たに登録される世界遺産

鹿児島県、沖縄県
奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島

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「生物多様性」や「絶滅危惧種の生息」といった価値が認められ、7月にオンラインで行われるユネスコ世界遺産委員会で登録が正式決定される見通しです。奄美大島と徳之島にだけすみ、国際自然保護連合から絶滅危惧種に指定されているアマミノクロウサギや、西表島(写真上)のみに生息するイリオモテヤマネコなどがよく知られています。


北海道、青森県、岩手県、秋田県
北海道・北東北の縄文遺跡群

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約1万5000年前から、稲作が本格的に始まる弥生時代まで約1万年もの間続いた縄文時代の遺跡群です。竪穴建物跡や掘立柱建物跡などが見られる三内丸山遺跡(写真上)や大湯環状列石(秋田県鹿角市)など17の遺跡が登録される見通し。農耕は行わず、漁や狩猟を基盤として1カ所に定住する生活様式だった縄文時代の文化を、いまに伝える遺跡群です。

《世界遺産ってどんなもの?》

ユネスコが世界遺産リストに登録した文化財や自然、景観など「顕著な普遍的価値」を持つ物件のこと。1978年以降保護目的として、登録され続けています。世界遺産には文化財などの「文化遺産」と天然の景観や野生の動物などの「自然遺産」、そしてそれが複合した「複合遺産」の3種類があります。78年に初めて登録されたのはガラパゴス諸島(エクアドル)など12件だけでしたが、いまでは1000件以上の世界遺産が登録されています。


今後、新たに登録される世界遺産を観光したいと考える人もいるのではないでしょうか。

今回の2件は上で紹介しているようにそれぞれの魅力があるので、これを機に観光客が増えると思われます。

ただし、世界遺産について詳しい河野まゆ子さんは「世界遺産に登録されると観光ブームが起こるのですが、世界遺産が増えるにつれてそのブームが早めに終わる傾向になっています」と、指摘しています。

「理由としては、世界遺産の数が増えることによって、相対的に1件あたりの価値が下がったような印象を消費者が受けてしまっていることが一つ。もう一つは、写真にも映え、知名度のある遺産は早期に登録されていて、近年登録されている遺産は観光客からは"地味"に見えることがあることです」と、河野さん。

上で触れている通り、世界遺産に登録されることの意義は、その遺産を保護して後世につなぐことにあります。

観光客の誘致が目的ではありません。

しかし河野さんは「多くの人が訪れるということにも意味がある」と話します。

「世界遺産の周囲に多くの人が訪れ、飲食や宿泊をすることで地域経済が潤い、その収入によって地域ぐるみで世界遺産をさらに保護していくというサイクルが生まれます。このサイクルなしには、その世界遺産を管理して保護することが難しいからです」(河野さん)

自然遺産では人を立ち入らせないという選択肢も保護につながりますが、それでも人の手による管理は必要です。

「つまり、『ここに後世に遺すべき遺産がある』ということを知ってもらわなければ、そもそも人は集まりません。世界遺産への登録は、世界中に存在を知ってもらえるという点で意義があり、その結果として人が集まるのです」(河野さん)


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しかし、多くの人が集まるということは、問題も生まれます。

上の例のように、国内外問わず人が集まるようになったことで逆に世界遺産としての価値を一時的に失ってしまったケースもあるのです。

中には利便性を優先し登録抹消になった遺産もあり、河野さんはこれからの世界遺産について「一過性のブームで終わらないように地域ぐるみでその世界遺産を守り、長く観光客が集まるように世界遺産だけではなく地域自体の魅力を発信する仕組みを作る必要があります」と訴えます。

では私たちが世界遺産に興味を持ち、見に行きたいと思った時はどのようにすればよいのでしょうか。

「観光客は自由に世界遺産を見に行くべきです。ただし、"保護"すべき場所に行くということだけは意識していただければ。その意識があれば、立ち入り禁止の場所に入る、ごみをポイ捨てする、というような遺産を損なう行動は控えられるはずです」(河野さん)。

観光することが世界遺産の保護につながるのなら、積極的に見に行きたい気分になりますね。

※この記事は2021年7月6日時点の情報を基にしています。

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取材・文/仁井慎治 写真/あずさ、ikeda_a(PIXTA)

 

<教えてくれた人>

JTB総合研究所 主席研究員
河野まゆ子(こうの・まゆこ)さん
2000年、東京大学文学部美術史学専攻卒業。旅行会社勤務後、06年に筑波大学大学院修士課程芸術研究科世界遺産専攻修了。同年4月から現職。観光や交流をフックとした地域活性化を支援するコンサルタント。

この記事は『毎日が発見』2021年8月号に掲載の情報です。

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