なんだかやる気が出ない...そんな日々を送っているのなら、「脳のどこかに未発達の脳番地があるかもしれない」と、脳内科医・加藤俊徳さんはいいます。「脳番地」とは、加藤医師が考案した脳の各部位を機能ごとに名付けたもの。今回は、著書『ぐうたらな自分を変える教科書 やる気が出る脳』(すばる舎)から、日常生活に関係する8つの脳番地を鍛えるコツを連載形式でお届けします。
「自分の経験」を話すのが会話の基本
人間社会のコミュニケーションは、自分が経験したことを語るのが基本で、その連続です。
経験を自分の言葉で伝えることは、社会に出て成功したり、良い給料をもらえる前提です。
ビジネスでお金を稼げる人の多くが言語化能力に優れているのはこのためです。
しかし、「自分の経験を語る」ことが苦手な人はたくさんいます。
これは脳のなかの伝達系脳番地が弱いからです。
伝達系脳番地は、何をどの順番で伝えるかを選択して、ものごとをわかりやすい形で伝える役割を担っています。
出来事や思考を言語化できているか?
私たちのコミュニケーションは、言葉による情報収集と情報伝達が中心です。
たとえば、「おはよう」のような挨拶や、「ニューヨークの株価が下落している」というニュース、「明日は雨らしいよ」といった誰かが発信した情報です。
言葉はほとんどの人が左脳主体の働きで操るので、日常会話の二言三言は左脳だけでこなすこともできます。
しかし「出来事」という経験のイメージは、左脳と右脳の両方で処理します。
人にイメージを伝えるときは、主に非言語の情報処理をしている右脳の情報を、言語の情報処理をしている左脳を使って言語変換する仕組みになっています。
この言語化がうまくできないと、自分の言葉で話すことがスムーズにいかないのです。
「非言語なら映像で伝えればいいのでは」と思うかもしれません。
しかし、イメージはいったん言語化しないと、正確に非言語に落とし込むのは困難なのです(それに、毎回映像を用意するのは現実的ではありませんし、自分のアマタの中の映像を人に見せる脳科学技術がまだできていません)。
元野球選手など、アスリートだった方が解説が上手なのは、現役のときに自分がイメージとしてとらえた状況や戦略などを言語化して理解していたからです。
試合中も、「盗塁くるよね」と口に出さないだけで合図を送ったりしています。
そういう人たちが解説者になると、長いあいだ考え抜いてきた思考が自然に言葉として出てくるのです。
「知識」と「経験」では、伝える難易度が違う
注意してほしいのは、「言葉にして伝える」という行為でも、「知識を伝える」のと「経験を伝える」のはまったく違うことです。
人から聞いたり本で読んだりした知識は、すでに誰かが言葉にしているので、それをしゃべるのはただの再生です。
でも、自分の経験や考えはまだ言葉になっていません。
言語化するのが難しい内容もあるので、かなり脳を動かすエネルギーが必要です。
いい考えだと思っても、言葉にしてみると論理が成り立たないこともあります。
ですから、出来事を言葉にするには訓練が必要です。
「今日あったこと言ってみてください」、と言われたらどうでしょうか。
事実を伝えること、その事実をどう考えているのか。
「今日の朝ごはんは納豆を食べた。毎日食べ過ぎていると思う」というのが言語化です。
これを繰り返していくことで伝える力がついてくるのです。
【伝達系を鍛えるトレーニング】
今日の出来事を人に話す、もしくは文章にして発信する
左脳にとって、言葉で得た情報を言葉で伝えるのは簡単なことです。
しかし、私たち自身の経験は、見たり、聞いたり、体を動かしたりというように非言語体験が多く、これをとらえているのは右脳です。
この右脳で得たイメージを左脳で言葉にするのが苦手な人が、「もう少しわかりやすく話してくれないか」と周りの人たちに言われるのです。
簡単なことでもいいので、自分が経験したエピソードを言葉にして人に伝える練習をすることで、左脳の伝達系を鍛えていくことにつながります。
【次の記事を読む】「負の脳回路」が強化されてるからかも・・・!? あなたのやる気を左右する「記憶系脳番地」とは
【最初から読む】即決&即行動ができるようになる「思考系脳番地」トレーニング
みるみる気力がわいてくる日常生活のコツなど、脳とやる気の科学が全6章にわたって解説されています