話しかけても反応がない夫と、どう暮らしていけばいいのか――。アスペルガー症候群のパートナーと結婚し、家庭を築いていく難しさから次第にうつ状態となったシニア産業カウンセラーの真行結子さん。自身の体験から、「自分らしい夫婦の形を実現させることが大切」だと気づかされました。そんな真行さんの著書『私の夫は発達障害?』(すばる舎)から、いい夫婦関係を保つヒントを連載形式でお届けします。
言わなければ相手に伝わらない
「夫が察してくれない、気にかけてくれない」と嘆くカサンドラは少なくありません。
妻が風邪気味で体調が悪く横になっていても、夫は「大丈夫?」と声をかけるどころか「夕食はまだ?」と催促してくる......。
おまけに、「具合が悪いので、夕食の支度ができないから、お弁当を買ってきて」と頼んでも、自分のぶんしか買ってこない。
妻が子どもの面倒に追われ忙しそうにしていても、「手伝おうか?」ではなく、ひとりでゲームを楽しんでいる、など......。
カサンドラから語られる、この手のエピソードには事欠きません。
夫に発達障害特性がある場合、暮らしのなかでこのような場面が度重なることも多く、「そのぐらいわかってよ!」と妻の苛立ちは募っていきます。
そして妻のなかで、夫から大切にされていない感覚が強まった結果、夫婦関係は円滑さを欠くようになります。
夫に発達障害特性がある場合、他者の立場で感じたり考えたりすることが難しい方も多いので、必ずしも妻をないがしろにしたり、悪意があっての行動とは限らないとの視点を持つことも大切です。
「言わなくてもこのくらいはわかるはず」ではなく、してもらいたいこと、してほしくないことを、夫に「明確に伝えていく」ことが必要なのです。
伝え方の工夫
発達障害特性のある夫に伝えるときのコツは、次の五つです。
① 具体的に伝える
② 伝えることは一つにする
③ 夫が落ち着ける環境で伝える
④ 文字で伝える
⑤ 冷静に伝える
これらのことに気をつけると、夫も耳を傾けやすく理解がしやすいと思います。
それでは、一つひとつ解説します。
① 具体的に伝える
「事実」と「要望」を具体的に簡潔に伝えましょう。
〈ケース1〉
夫が帰宅したとき、熱があり、顔が赤く、元気なく横になっている妻を見て、「妻は体調が悪いのだ」と気づかない夫。
食事の支度が難しいと感じ、夫に夕食のお弁当を買ってきてもらいたい妻。
妻「 私は風邪気味で身体がだるく夕食の支度ができないの(事実)。あなたと私のぶんのお弁当を二つ買ってきてもらえるかしら(要望)」
夫「そうだったんだね。大丈夫?お弁当二つ買ってくるね」
妻「 私は食欲がないので(事実)、私のぶんは野菜サンドウィッチ一パック買ってきてね(要望)」
夫「わかったよ。君は野菜サンドウィッチ一パックだね」
夫は、気がつかないだけなのです。
妻の状態を伝えれば、状況を理解し、妻を案じ、行動を取ることができるのです。
気がつかないことに対し、「なぜ気づかないの!ふつうはわかるわよ!私のことを大切にしていないの!?」と訴えても、夫は困惑し、どのように対処したらよいのかわからず頭を抱えてしまうでしょう。
② 伝えることは一つにする
一度に多くのことを伝えると、負荷がかかり情報を消化できないことがあります。
「具合が悪いからお弁当買ってきて!そのあと、お風呂洗ってね。ああ、のどが渇いた、お弁当買いに行く前にお水一杯ちょうだい。明日、病院行ったほうがいいかな?近くの○○病院は、近所の奥さんが不親切って言ってたんだけど、あなたどう思う......?」
このような伝え方をした結果、夫がパニックになって家を飛び出したり、「うるさい!」と叫んだり、黙り込むなどのケースを多く聞きます。
③ 夫が落ち着ける環境で伝える
感覚が過敏で、周囲の音や明るさ、臭いなどが気になる、興味の対象が他にあるなどの場合、妻の話に集中できないこともあります。
子どもが寝たあとの時間を設定する、テレビを切る、照明を落とす、スマートフォンを別の部屋に置くなどしてみましょう。
また、「○時から△△分間」と時間の枠を設定することで、妻との時間に集中できる夫もいます。
夫が落ち着いて話を聞くことができる環境を設定することも、大切な要素です。
④ 文字で伝える
発達障害特性があると、顔の表情を読むことが苦手なゆえに、対面での会話にストレスを感じる場合があります。
耳から入ってくる言語と表情理解の同時処理を求められるので、負荷がかかるのです。
また、発達障害特性がある人は、耳からの情報よりも、視覚情報を理解しやすい傾向があるとも言われています。
伝えるツールとして、手紙、メール、ラインなどを活用してもよいでしょう。
伝えたことに対し、返事が欲しい場合は、期限を決めて、その旨を伝えましょう。
⑤ 冷静に伝える
発達障害特性がある人には、同じことを何度も繰り返し伝えていく必要があるかもしれません。
また、夫が集中して聞くことができる場を設定したとしても、気がそれやすかったり、じっとしているのが苦手などの障害特性がある場合、途中であくびをしたり、きょろきょろしたり、足をぶらぶらさせたりするかもしれません。
そんなとき、妻は苛立ち、口調が強まることもあるでしょう。
しかし、その妻の状態を見た夫は、自分は怒られている、責められている、嫌われている、どうしていいかわからない......と感じ、石のように黙り込んだり、その場から逃げ出すこともあります。
妻は、このことを特性の一つとして受け止め、あくまでも冷静に対応する努力が必要となります。
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カサンドラ症候群から回復するまでの同居・別居・離婚の3ケースを全5章が紹介されています