誰もが抱える仕事や人間関係の悩み。キャビンアテンダントでの経験から人材教育の講師に転じた三上ナナエさんは「全ては気遣いでうまくいく」と言います。そこで、三上さんの著書『仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』(すばる舎)から、自分の魅力をアップし、対人関係もスムーズにする気遣いスキルを連載でお届け。自信をつけて「相手から信頼される気遣い」を身につけてみてはいかがでしょうか。
「それはひどい奥さんですね」で上司を怒らせる
同感と共感は違う。
この2つの違いを理解し使い分けると、話を聞くときに、話し手の気持ちに寄り添った反応ができるようになります。
あるとき、A課長は飲み会の席で、自分の奥さんに対しての不満を愚痴っていました。
「家に帰ると奥さんがいろいろ文句を言ってくるから、ストレスがたまるんだよ」
そんなことをさんざん部下たちに話していました。
すると、部下のBさんは、「それはひどい奥さんですね〜」とA課長の愚痴に呼応するように返しました。
しかし、A課長は、そのBさんの一言にムッとしたそうです。
さんざん自分では奥さんの悪口を言っておきながら、Bさんに言われたとたん、なんか急にムッときてしまった。
きっとA課長は、「他人に身内の悪口は言われたくはない」、こんな気持ちになったのではないでしょうか。
Bさんも、上司の意見に調子を合わせていたはずなのに怒らせてしまうこととなり、さぞ焦ったことでしょう。
同感しない。否定しない。共感する
Bさんはどんな言葉を返せばよかったのでしょうか?
Bさんが言った「それはひどい奥さんですね〜」は「同感」です。
相手の話に対して、「私も同じように思います」と言うことです。
同感していい場面はもちろんありますが、「身内の悪口に賛同する」ようなこの状況では好ましくありません。
また、なんでもかんでも同感ばかりしていると自分の意見がない人と映ることもあります。
では、A課長の愚痴に対して、「でも奥さんも大変なんじゃないですか?」と返したらどうでしょう。
これは、A課長が自分の意見を「否定」されたと感じてしまう可能性が高いですね。
「なんだ、お前は俺が悪いとでも言うのか!」
なんて怒らせてしまいかねません。
同感はしない。否定もしない。ではどうすればいいのでしょう?
そこで出てくるのが「共感」です。
共感とは、肯定も否定もせず「ただ相手の気持ちを受け取ること」。
この場合、「A課長はお家でだいぶストレスを感じていらっしゃるんですね」と返します。
これは、A課長の気持ちをそのまま言葉にしただけです。
A課長は奥さんがひどいという事実よりも、「自分が大変なんだ」「ストレスがたまっているんだ」という気持ちを誰かにわかってほしいから話をしたのです。
それに対し、「その気持ちわかりますよ」と伝えるのが共感です。
「相手の気持ち」をそのまま言葉にするだけ
ビジネスシーンでも「共感」を使うと、上手にコミュニケーションを図ることができます。
たとえば、クライアントが「うちの社員、なんだか元気がないんだよね」と言ったとします。
同感だと「そうですね。ちょっと元気がないですね」、否定だと「そんなことはないですよ」となります。
これらの言葉だと、相手は受けとめてもらったという感覚にはなりづらいのです。
一方、共感であれば「元気がないと感じていらっしゃるのですね」となります。
これであれば、クライアントは自分が感じていることをしっかり受けとめてくれたと思い、信頼して相談してくれるようになるでしょう。
以前私も、共感してもらうことで、癒され、やさしい気持ちになれた経験があります。
それは、近所の和菓子屋さんでお菓子を買ったときのこと。
家に帰って袋を開けると、買ったはずのお菓子が一部入っていませんでした。
慌てて電話でお店に問い合わせると、お店のおばあちゃんが、「本当にごめんなさいね。お家に帰ってとてもがっかりされましたよね」と言ってくれたのです。
「とてもがっかりされましたよね」という言葉になんだか癒され、怒る気持ちは全くなくなりました。
私は自分の気持ちを言葉で伝えたわけではありませんでしたが、それを読み取って言葉にしてくれたことが嬉しかったのです。
気持ちに焦点を当て、それを受けとめ、言葉にして返してあげることが「共感する」ということです。
共感とは、相手の心に寄り添う大事な気遣いなのです。
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元ANAのCAで4500回のフライトを経験した著者が会話や見た目などシーンごとに使える37の気遣いのコツを全5章で解説します