定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「すべての人が公正に平和を享受できる世界を!」です。
子どもたちの絵をチョコレートの缶に
シャグールは、イラクに住む15歳の女の子。
2年前にリンパ性白血病と診断され、現在も病院に通っています。
治療を開始してから学校に通えていません。
日雇い労働者として家族を支えていた父親は、脳卒中で倒れてしまい、経済的不安のなかで生活しています。
そんな彼女が描いてくれたのは、赤いトサカの黄色い鳥。
かわいいさえずり声が聞こえてきそうです。
ぼくが代表をしているNPO日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)では、毎年、この時期、チョコ募金を実施しています。
今年で16回目になりました。
イラクの子どもたちが描いた絵をチョコレートの缶にプリントし、寄付をいただいた方にプレゼントするというかたちの募金です。
今年のチョコ募金には、シャグールの黄色い鳥のイラストを使いました。
彼女の夢は、看護師になること。
治療のために遅れている学業をサポートして、なんとか高校卒業後、看護専門学校に行かせてあげたいなと思っています。
カラフルな花のイラストを描いてくれたのは6歳のエリーン。
シリアからの難民です。
シリアでは「イスラム国」による混乱で、国は政府側と反政府側にいくつか分かれ、内戦が続いています。
そんななかで白血病の治療を続けることは難しいと判断し、一家8人でイラクに逃れてきました。
2020年の初め、骨髄移植を受け、現在は経過観察をしています。
感染症の心配があるため、コロナが流行っている今は特に注意が必要です。
外で遊ぶことができず、精神的なストレスを感じているエリーン。
どんな思いを花のイラストに込めてくれたのでしょうか。
シャグールの夢は看護師。
6歳のエリーン。
ジャストピースを合言葉にしたい
今年のチョコ募金は「ジャストピース」を合言葉にしています。
「ジャスティス(公正)」と「ピース(平和)」を合わせた新しい概念の言葉だといわれています。
直訳すれば、「公正なる平和」ということです。
だれかの犠牲の上につくられた平和は長続きしません。
犠牲を強いられたところには不満や不安が渦巻き、やがて「イスラム国」のようなテロリストも生みだしてしまいかねません。
そうではなく、だれもが公正に平和を享受できるようにするにはどうしたらいいのか。
世界はそうした気運に満ちているように思います。
例えば、国連加盟193か国が取り組むSDGs(持続可能な開発目標)。
貧困や飢餓、差別をなくし、健康や教育、安全な水とトイレなどを確保するため、17の目標を掲げています。
これまでのどこかの国のだれかを犠牲にした開発ではなく、世界中のすべての人が幸福に生きられるように、先進国だけでなく開発途上国も、国だけでなくNPOや企業、個人も参加できるSDGsは、世界中のみんなが解決すべき共通課題といえるでしょう。
小さなチョコ缶にも、中東の子どもたちの夢・平和が実現するように思いを込めました。
多くの人の思いをのせたチョコレート
子どもたちが描いた絵は、デザインされ、製缶工場で作られます。
今年は、10万個を発注しました。
家内工業でやっている小さな工場も、コロナ禍のなかでありがたいと引き受けてくれました。
中身は、北海道の有名な菓子メーカー六花亭のハート形のチョコレート。
ミルクチョコ、モカ、ホワイトの3種類が10枚入っています。
最後に缶を袋詰めし、発送をしてくれているのは、障害者の就労支援をしている複合福祉施設KFJ多摩はなみずきのみなさんです。
11月6日にオンラインで開かれた「チョコ募金キックオフイベント」には、音楽評論家で作詞家の湯川れい子さん、俳優のサヘル・ローズさん、斉藤とも子さん、ファッションデザイナーの鶴田能史さん(tenbo代表)らが参加してくれました。
鶴田さんは、X JAPANとLUNA SEAのギタリスト、SUGIZOさんの舞台衣装を作っています。
SUGIZOさんはビデオレターで、これまでのチョコ缶をデザインしたギターをお披露目し、ギターの収益をJIM-NETに寄付すると話してくれました。
一つのチョコレートに、みんなが少しずつ思いをのせてくれていると感じています。
JIM-NETハウスを拠点に教育支援も
ぼくたちJIM-NETは、イラク戦争から始まり、その後の「イスラム国」の台頭でシリアからの難民やイラク国内避難民が身を寄せる難民キャンプなどを支援してきました。
難民キャンプで暮らす女の子は心臓病で経過を観察していましたが、心不全のため十分に成長できずついに手術に踏み切りました。
ぼくも数年前から難民キャンプに行くたびにフォローアップしていたので、手術が成功したという知らせを聞き、胸をなでおろしています。
チョコ募金がこの女の子の命を救いました。
イラクで最も治安がいいといわれているアルビルに、小児がん総合支援施設JIM-NETハウスを作り、貧しい患者さんの支援をしたり、遠くの難民キャンプから治療のためにやってくる家族がここで寝泊りできるようにしています。
拠点ができたことで、イラクの学校の先生たちがボランティアで、教育支援をしてくれるようになりました。
難民の女性たちが収入を得るためアクセサリーを作るという事業も行われています。
チョコ募金は、こうした活動も支えています。
チョコ募金は、4缶1セットで2200円です(送料別)。
申し込みはJIM-NETのホームページから、メールフォームで。
イラクの難民キャンプ。