「国」と「都道府県・市町村」は対等・・・って本当? 政治の仕組みから見る「国と地方公共団体の関係」

総理大臣、選挙、憲法改正など話題の尽きない日本の政治。とはいえ、話が大きすぎてよく分からないという人も少なくないでしょう。そこで、カリスマ塾講師・馬屋原吉博さんの著書『今さら聞けない 政治のキホンが2時間で全部頭に入る』(すばる舎)から、「わかりやすい政治用語の基本」の一部を抜粋してお届け。基本を知ると、今の世の中がよくわかります。

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国の政治と地方の政治はしくみが少し異なる

「地方」とは

「地方自治」について学ぶ前に、念のため「地方」という言葉の意味を確認しておきましょう。

政治について学んでいるときに、「地方」という言葉が出てきたら、それは原則として、「都道府県」や「市町村」、そして「東京23区」のことを指します。

これら3つを「地方公共団体」と呼びます(※)。

ニュースなどでしばしば耳にする「(地方)自治体」という言葉も、一般的にこの「地方公共団体」を指しています。

これら3つの「地方公共団体」には、都道府県知事や市町村長といった「選挙によって選ばれた行政の責任者」と、同じく選挙によって選ばれた人で構成される「議会」が存在しています。

私たちにとってより身近な「都道府県」や「市町村」の政治は、「国の政治」とは少し異なるしくみで運用されています。

そのポイントを、「地方自治」の「自治」という言葉に注目しながら見ていきましょう。

※地方公共団体は「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」の2つに分けられます。

前者には都道府県と市町村、後者には都に設置される特別区の他に、地方公共団体の組合や財産区なども含まれます。「国」と「都道府県・市町村」は対等・・・って本当? 政治の仕組みから見る「国と地方公共団体の関係」 P200.png

生活に密着した政治のあり方

地方の政治について、憲法は第92条で、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」と規定しています。

さて、「地方自治の本旨」とは何でしょうか。

「地方自治の本旨」、すなわち地方自治のあり方は、一般的に「住民自治」と「団体自治」という言葉で説明されます。

まずは「住民自治」という言葉の意味から考えてみましょう。

国の政治では「間接民主制」がかなり徹底されています。

たとえば、「国会議員」でも「内閣」でもない私が「こんな法律を作ってください」と国会に頼んだとしても、国会には、それに対して何らかの対応する義務は発生しませんでした。

それに対して、私たちにとってより身近な地方の政治には、もう少し住民が関われる部分があった方がいいのではないか、というのが「住民自治」の考え方です。

地方自治は民主主義の学校

たとえば、都道府県や市町村の中で運用されるルールを「条例」と言いますが、住民である私が「こんな条例がほしいなぁ」と思ったら、条例を制定する権限を持った地方議会に検討してもらうための手段が用意されています。

国の政治と比べると、地方の政治には住民が関わる部分が大きく、住民が「民主主義」とはどういうものかを体得しやすいということで、イギリスの法学者ブライスは「地方自治は民主主義の学校である」という有名な言葉を残しました。

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国と地方公共団体はあくまで対等!

「地方分権」の方が人権が守られやすい

「地方自治の本旨」の2つ目である「団体自治」とは何でしょうか。

これは、住民1人ひとりの人権を守るために、地方の政治は、国から独立した団体にゆだねられるべきだ、という考え方です。

言い換えると、「国(政府)」と「地方公共団体」は対等である、ということです。

都道府県や市町村といった組織は、日本国政府の「下」にあるわけではないのです。

戦前の日本のような中央集権的な国家では、地方のことも国が決めていきます。

戦前の都道府県知事は、今のように選挙で選ばれるのではなく、政府によって任命されるものでした。

戦後、日本の民主化が進められる中、1947年に「地方自治法」が制定されましたが、その後も、地方公共団体の首長などを国の下部機関と位置づける制度(「機関委任事務制度」)が存続していました。

この制度が1999年の地方自治法改正によって廃止されたことで、「地方分権」がかなりの程度徹底されるようになりました。

国の方が大きな力を持ちがちだが...

2011年7月に、東日本大震災の復興大臣、すなわち日本国政府のメンバーが被災地を訪れたとき、知事が出迎えにこなかったことに不快感を表明したことが問題視されました。

国と地方公共団体では、動かせる予算や人員が大きい国の方が力を持ちがちだからこそ、政府のメンバーには「地方自治の本旨」をより理解した言動が求められています。

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国は「議院内閣制」、地方は「二元代表制」。地方議会と首長

地方の政治について、「国とどう違うのか」という視点に立って、もう少し詳しく見ていきましょう。

まず、国の政治は「立法」「行政」「司法」の3つに分けて進められていますが、このうち「司法」、つまり裁判はすべて国(裁判所)が管轄しています。

地方の政治で、「国会」に似た役割を果たす議決機関が、「地方議会」です。

東京都には「東京都議会」がありますし、大阪市には「大阪市議会」があります。

その地方の中で運用されるルールである「条例」を作ったり、その地方の「予算」を決めたりしています。

地方の「行政」を実際に進めていくのは、「都道府県庁」や「市役所」「町・村役場」などで働く地方公務員で、その地方公務員のトップに立つのが、「都道府県知事」や「市町村長」です。

都道府県知事や市町村長をまとめて、「(地方公共団体の)首長」と呼ぶこともあります。

「二元代表制」とは

地方の行政のトップである首長は、住民によって直接、選挙で選ばれます。

また、首長が地方議会議員や国会議員を兼ねることはできません。

国会議員の中から国会によって指名される内閣総理大臣よりも、国民によって選挙で選ばれるアメリカ大統領に近い存在です。

このように、首長と議会の両方を住民が選挙で選ぶ制度を、「二元代表制」と呼びます。

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「国」と「都道府県・市町村」は対等・・・って本当? 政治の仕組みから見る「国と地方公共団体の関係」 140-H1全8章にわたってカリスマ塾講師が政治に関するさまざまな用語をわかりやすい図解で解説しています

 

馬屋原吉博(うまやはら・よしひろ)
中学受験専門・個別指導教室SS-1社会科教務主任。中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。大手予備校や進学塾で、大学・高校・中学受験の指導経験を積み、現在は完全1対1・常時保護者の見学可という環境で中学受験指導に専念。開成、灘、桜蔭、筑駒といった難関中学に、数多くの生徒を送り出す。著書に『CD2枚で古代から現代まで 聞くだけで一気にわかる日本史』(アスコム)などがある。

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『今さら聞けない 政治のキホンが2時間で全部頭に入る』

(馬屋原吉博/すばる舎)

通常国会や予算委員会、審議会に憲法改正など、ニュースでたくさん聞くけど、結局それって何なの?何のためにするの?今さら聞けないそんなモヤモヤを、中学受験のカリスマ塾講師がわかりやすく解説。「政治」が私たちの生活に密接にかかわっていることがわかる一冊です。

※この記事は『今さら聞けない 政治のキホンが2時間で全部頭に入る』(馬屋原吉博/すばる舎)からの抜粋です。

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