しんどい時に「わかるよ」と言われてムカッ! 落ち込んだ相手にこそ使いたい「バックトラック」とは

人との距離を取る新しい暮らし方に慣れてきても、悩みが尽きないのが「人間関係」。これを円滑にできる方法の一つに「相槌対話法」というテクニックがあります。そこで、実践的な技術がまとめられた書籍『誰とでも会話が続く相づちのコツ』(齋藤勇/文響社)から、すぐにできる相づちの「さしすせそ」と「あいうえお」の使い方を連載形式でご紹介します。

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ネガティブな相槌が人間関係を制す

共感的相槌は、相手の話を聞き、共感し、同じ気持ちであることを伝えるものです。

でも、それだけではありません。

相槌をすることにより、話し手が、聞き手も自分と同じ感情を持ち、感情を共有していると思えるように気持ちが伝わる相槌のことです。

話し手が、聞き手の相槌を、"共感的だ"と思い、感情が共有されることを意図しています。

この共感的相槌は、話し手の感情に共感することなので、喜びや楽しみ、達成感など、プラスの感情の共有を伝える「ポジティブな共感的相槌」と、悲しみ、辛さ、腹立たしさなど、マイナスな感情の共有を伝える「ネガティブな感情的相槌」があります。

また、相槌の基本は、相手を肯定し、自己充実感を満たすものです。

しかし、この共感的相槌の分野においては、ネガティブ感情の共感的相槌が、人間関係を深めるには、より大切で、より重要なのです。

前述した通り、共感とは相手の感情と同じ感情を持つこと。

つまり、共感的相槌では、話し手の感じている感情を、聞き手の自分も同じように感じていて、話し手の心理的状態を十分に理解して、共有していることを伝える必要があります。

話し手が「この人は自分の感情と同じ感情をもち、自分の心を本当に理解し、共有してくれている」と感じる相槌です。

もしも話し手が、落ち込んだり、辛い思いをしたりしているときは、そのネガティブな心情に合った共感的相槌を打つことです。

それができたら人間関係は極めて深くなります。

共感的相槌は話し手の心に深く響き、相槌を打った聞き手に対して好意を持ち、信頼感を醸成することにつながります。

実際、落ち込んでいるときには、相手の好意をストレートに受け入れ、相手をより好きになることは、対人心理学のウォルターの自尊理論の研究で実証されています。

ポジティブな感情への相槌よりも、ネガティブな感情への相槌の方が心を打つのです。

ただし、ここで注意をしたいのは、ネガティブな感情への共感表現が難しいということです。

相手は、悲観的になり、些細な言葉にも敏感になっています。

その状況で、下手な言い回しをすると、相手をさらに不快にさせ、かえって、反感を買ってしまいかねないのです。

このような状況の時、つい、多くの人が口にしがちなのが、「わかります」「わかるよ、その気持ち」という共感的相槌です。

しかし、この「わかります」というネガティブ感情の共感的相槌は、喜ばれるどころか、反感を買いかねません。

実は「わかります」は、不用意に使ってはいけない相槌なのです。

共感もどきの相槌です。

落ち込んでいるときは、絶望感や自己嫌悪感から「自分の気持など誰もわかってくれない」、「誰にもわかるはずがない」と感じています。

そんな心情なのに、相手から軽く、「わかる、わかる」と言われると、「よくわかってくれた」と思うよりも、「軽々しく言うな、あなたに何がわかる」「お前にわかるわけがない」と拒否の気持ちが強くなってしまいます。

だから、「わかるよ」の相槌は、相手のことを思うがゆえに、つい、言いたくなりますが、ネガティブな感情のときは注意しなければいけない相槌なのです。

では、どんな相槌がいいのでしょうか。

ネガティブな感情への共感的相槌として、間違いがないのは、「バックトラック」です。

バックトラックとは、心理カウンセリングの用語で、相手(クライアント)の言うことをそのまま反復することです。

つまり、相手が話したネガティブ感情話をそのまま、おうむ返しで言うことです。

余計なことを言わないで、ただ、静かに、同じ言葉を、より低い音調で、相槌として繰り返すのです。

仮に、同僚が上司から叱責された話をして、自分の感情を吐露したとします。

「おれ、本当に辛いんだよ......」と言ったら、その感情話を、そのまま、繰り返し、「辛いよね」と相槌を打ちましょう。

また、勝負に負けた人が、「悔しい......ホント、悔しい......」と言ったら、「ホント、悔しいね......」と、そのままおうむ返しするのです。

実際の場面でなく、紙面の上でこう聞くと、なんとも芸がなく、頼りない方法に思えるかもしれません。

実は私も、カウンセリングで最初にこの方法を教示されたとき、「そんなことで、いいのか」「そんなわけないだろう」と懐疑的になりました。

しかし、実践してみるとその効果がわかります。

沈んでしまっている相手には、何を言っても届かないし、変に励ますと、反発されたり、返って落ち込んでしまったりするもの。

そんなときには、ただ相手の心に寄りそうことが、一番大事なのです。

寄りそうというのは、余計なアドバイスなどしないで、一体感を出し、近くにいて温かみを伝えることです。

相手が沈んでいるときは、何も言わないで寄りそうのが、いいのです。

寄りそう気持ちを優しい言葉で表現できればなおよいでしょう。

それが、バックトラックです。

この相槌は、話し手自身の言葉のおうむ返しなので、相手に、違和感は全くありません。

だから、すんなりと飲み込めるのです。

しかも、自分の感情を聞き手から、相槌として聞くのは、自分だけでなく一緒にいる人もそう思っているのだと感じ、安心します。

この人は、「自分の気持ちをわかってくれているのだ」と、まさに同じ感情を共有する"共感"を肌で感じることができるのです。

ここで注意すべきことは、感情を共有するために感情語を返すことです。

話し手は、自分のネガティブな感情について話の中で感情話を何度も用います。

聞き手は、それを捕まえることが重要です。

とんちんかんなワードを繰り返したところで、共感の相槌にはなりません。

相手が感情話を終えたときに、一言くり返すのです。

それが、共感的相槌となり、話し手の心を揺さぶります。

ここで多くの言葉は不要です。

「悲しいよね」「腹が立つよね」という、一言の共感的相槌が重要なのです。

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コミュニケーションを円滑にする相づちのテクニックが全5章で解説されています

 

齋藤勇(さいとう・いさむ)
立正大学名誉教授、大阪経済大学客員教授、文学博士。日本ビジネス心理学会長、日本あいづち協会理事長。人間関係の心理学、特に対人感情や自己呈示の心理などを研究する。メディアでも活躍し、心理学ブームの火つけ役となった。著書、監修書に『超・相槌』(文響社)、『外見心理学』(ナツメ社)など多数。

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『誰とでも会話が続く相づちのコツ』

(齋藤勇/文響社)

会話が上手な人が持っているスキル、それは相手の話しをスムーズに引き出す力。つまり「相づち」です。家族や友人との会話に、仕事でのコミュニケーションに、どんなシーンでも使える「万能の会話テクニック」が満載です。

※この記事は『誰とでも会話が続く相づちのコツ』(齋藤勇/文響社)からの抜粋です。

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