2020年6月1日から改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」が施行されました。経営者はもちろん、従業員もパワハラ防止対策に取り組まなければならないという法律ですが、一体何に気を付ければよいのでしょうか。そこで、パワハラ防止法のすべてがわかる『最新パワハラ対策完全ガイド』(和田隆/方丈社)から、そもそも「パワハラ」とは何か、そして最新の対策や対処法などをご紹介します。
「やりにくい上司」を変える
一般的には、パワハラは上司から部下に対する行為として問題視されますが、近年、「逆パワハラ」という問題も指摘されています。
これは部下が上司に対して行ういじめ・嫌がらせです。
挨拶や業務の指示をされても無視を続けたり、受け付けなかったりする。
業務上必要な注意に対しても「それ、パワハラです」「訴えますよ」などと言って、業務の遂行を拒否するなどです。
集団になって上司を無視、誹謗中傷するケースもあります。
労働者は守られなければなりませんが、そのためにつくられた法律を逆手にとって、行き過ぎた主張をしたり悪用したりすることは避けなければなりません。
上司による部下へのパワハラが許されないことであるのと同様に、部下による上司へのパワハラも許されないことです。
たとえば、叱られただけで「パワハラだ」と主張する人がいます。
私たちは、往々にして自分に偏った見方でものごとを見ているものです。
「気に入らない上司」「やりにくい上司」というのは、自分サイドから見たネガティブな側面であって、見る側面を変えてみると、全く違う上司像が浮かび上がってくることがあります。
ある職場の例をご紹介します。
人事異動でその部署の責任者が交代しました。
前任者のA部長は、メンバーの意向をとても尊重してくれる人で、企画を上げるとどんなものでも経営会議に諮ってくれました。
メンバー間では「やりやすい部長」「理解のある上司」として定評がありました。
ところが、後任のB部長は、全く違う方針で臨みました。
メンバーが企画を上げても、あれこれと重箱の隅をつつくように問題点を指摘して、全然会議にかけてくれなくなったのです。
メンバーは皆、「われわれに嫌がらせをしているのではないか」と大いに不満を漏らしました。
B部長は着任早々から「やりにくい部長」「部下の思いをくみ取らない上司」という目で見られるようになりました。
当初はみんなで愚痴ばかり言っていましたが、それでは埒が明きません。
するとメンバーの一人から「自分たちも従来のやり方にこだわっている。今はB部長のやり方に沿ってみるしかないのではないか」という意見が出ました。
B部長は論理性を重視する人でした。
企画書に、論理的な不備があったり、少しでも論理に飛躍があったりすると、そこを突かれて決して通してくれません。
逆に、ビジュアル面など、ほかの部分が多少手薄であっても、論理さえ通っていればいいのです。
このことに気づいたメンバーたちは、B部長に「ミスター・ロジック」というニックネームをひそかにつけて、とにかく論理性重視の企画書に力を入れました。
すると、B部長がメンバーたちの企画にOKを出し始めます。
しかも驚いたことに、B部長は経営会議でもその企画を押し通し、次々と企画の推進を決めてくるのです。
振り返ってみると、A部長のときは企画は了承してくれても、経営会議に諮るとダメな場合が多かった。
B部長に変わってからのほうが、むしろ自分たちのやりたいことが実現できていく、ということに気がつきました。
企画の再提案の準備も不要となり、残業も減って、今でいう「働き方改革」が可能になったのです。
メンバーたちが当初のまま「われわれに嫌がらせをしている」「やりにくい部長」というネガティブな見方にとらわれていたら、このような転換は起こらなかったでしょう。
「ミスター・ロジック」という別の見方でB部長をとらえなおしたために、関係性が大きく変化したのです。
一見マイナスの事柄でも、それがプラスになることを考える。
考え方の枠組み(フレーム)をポジティブに変える。
これを「リフレーミング」といいます。
「気に入らない」「やりにくい」など、上司に対してネガティブな思いにとらわれていると感じたら、リフレーミングという手法を試してみてください。
一方、嫌がらせの意図があって、理詰めで追い込む上司の場合、リフレーミングする必要はありません。
早めに職場の相談担当者に相談することをおすすめします。
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これからの時代、「働く人の常識」になるパワハラ対策を全7章で解説。厚生労働省のガイドライン全文も付録されています