新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。
情報を引き出しながらだますオーダーメイド詐欺の恐怖の手口
「このところ、寒いですね」
高齢者宅に、業者の男から電話がかかってくる。
「はい」
「これだけ寒いと、なかなか布団から出るのも億劫になってしまいますよね」
「ええ」
「寒くなってきて、お体でつらい部分が出てきていませんか?」
「そうですね」
「とくに腰の痛みとか、関節痛とか大丈夫ですか?」
「このところ、朝晩は膝や節々が痛くなりますかねえ」
「病院には通われていますか?」
「はい」
「病院に通われて、どうですか?なかなか症状は改善されないのではないですか?」
「そうなんですよ」
こうして、業者は高齢者の健康状態を把握していく。
巧妙な点は、天気の話からスムーズに情報の収集の話に入っていくところだ。
当然、高齢者になれば体に不具合は出てきており、しかも病気の話には関心がある。
相手のツボをうまくつつきながら話を展開していくのだ。
さらに、悪質業者はここでは高度なテクニックをもうひとつ重ねて、口を軽くさせている。
それは「イエスセット」だ。
「はい」という肯定的な返事を繰り返しさせながら、自分の意図する話の方向に誘導する手法で、人は「はい」を何度も言わせられると「いいえ」という否定する言葉を言いづらくなり、当然、電話も切りにくい状況になってしまう。
その上で、業者は切り出す。
「私たちの会社には膝の痛みを軽減してくれるサプリメントがありますよ。胃の調子も悪いならば、もうひとつ別な健康食品もお勧めですね。よろしかったら使ってみませんか?」
話の流れはすべて肯定的に流れているゆえに、人のいい人ほど「いらない」という否定的な言葉は言いづらい。
そして、つい軽い気持で「ちょっと試してみようかな」と言ってしまい、購入契約をしてしまうことになる。
ここまで見てきてわかるように、もっともこわいのは「個人情報の足し算」なのだ。
だます側は相手と長話をしながら情報の足し算をして、相手の身の丈に合うようなだましの洋服を着せようとする。
それゆえに、私はこれを「オーダーメイド詐欺」と呼んでいる。
その人にピッタリ合ったベストなだましの話をしてくるために、「はい」という相手の意に沿った答えしか返せなくなるのだ。
「あなたが利用しているA銀行のカードが偽造されている恐れがあります」
60代女性のもと、警察から電話がかかってきた。
「預金が引き出される可能性があります。お金を家に置いておいたほうが安全ですよ」
驚いた女性はA銀行に向い、250万円ほどを引き出した。
女性が家に戻ると、再び警察から電話があった。
「お金は引き出されましたか?」
「はい」
「それはよかったです。ですが、あなたのようにA銀行でお金を引き出した人の中に偽札がまざっていた人がいました。それを調べるために刑事がそちらに向かいますので、お金を確認させてください」
「わかりました」
そして、女性は家を訪れたニセの刑事に金を渡してしまい、だまし取られてしまった。
なぜ、女性は「カードが偽造された」という言葉を簡単に信じてしまったのだろうか。
実は、それには理由がある。
この詐欺電話がかかる前に、ATMシステムの保守・管理業務に携わった委託先の社員が預金者の情報を不正に取得して、キャッシュカードを偽造、口座から2000万円以上を引き出していたとして、神奈川県警に逮捕されていたのだ。
つまり、実際に起こった事件に便乗した詐欺だったのだ。
こうしたニュースが流されて、地元の人たちが不安になっているところに、警察官をかたった男が「その銀行内にまだ犯人の共犯者がいる」と、でっちあげた電話をかけて犯行に及んだのである。
実に、機を見るに敏な手立てである。
つまり、電話などでこの女性と話すうちに「事件の起こった銀行を使っている」ことを知った詐欺師は、警察をかたっての詐欺を思いついたのであろう。
そして、女性は本人にピッタリ合った詐欺を着させられて、オーダーメイド詐欺でだまされてしまった。
もちろん被害者はそんな服の注文などしていないのだが、詐欺師たちの目線から見れば本人の口から個人情報が話されることは「詐欺の服をつくってください」と、オーダーをされているようなものなのだ。
つまり、だまされないためには個人情報を足し算されるような長話はしないこと。
見知らぬ相手との会話はできるだけ早く切り上げる。
それが身を守ることにつながる。
詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅