4月からオフィスや飲食店も原則屋内禁煙になりました。広がり続ける公共の場での「禁煙」背景にある問題は何でしょうか? 産業医科大学 産業生態科学研究所 教授の大和 浩(やまと・ひろし)先生にお聞きしました。
原則屋内禁煙にはどのような効果が?
「禁煙の場所が増えている気がする...」という人は多いのではないでしょうか。
その理由の一つは、4月から全面施行された改正健康増進法です。
すでに敷地内禁煙になっていた学校や病院などの施設に加え、下にあげる施設も原則屋内禁煙になりました。
4月から変わった点
【原則屋内禁煙になった主な施設】
・事務所
・工場
・ホテル
・旅館(客室は喫煙可)
・飲食店鉄道
・旅客船理
・美容院
ほかにも国会、地方議会など
※ただし、施設内に喫煙専用室や加熱式たばこ専用の喫煙室の設置は可能
喫煙専用室:喫煙のみ可能で、飲食は不可。
加熱式たばこ専用の喫煙室:飲食は可能だが、通常の紙巻きたばこの喫煙は不可。
※すでにある経営規模の小さな飲食店は、店内を喫煙可能にすることもできる。東京都と千葉県では従業員がいないことも条件。
※バーや公衆喫煙所などの喫煙を目的とする施設では喫煙可能。
これらの背景にあるのは、他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙の防止です。
受動喫煙による健康被害を研究する産業医科大学の大和浩先生は、「諸外国に比べ受動喫煙防止対策はWHO(世界保健機関)から『最低レベル』と評価されていた日本ですが、半歩前進といえます」とする一方で、万全ではないと警鐘を鳴らしています。
「国内では、たばこが原因で亡くなる喫煙者の数は年間約13万人、受動喫煙が原因で亡くなる非喫煙者は約1万5000人と推計されています。つまり、非喫煙者はたばこを吸わないにもかかわらず、喫煙者の約9分の1ものリスクを背負わされているのです」(大和先生)
今回の法改正では、受動喫煙を100%防止することができないと大和先生は指摘しています。
原則屋内禁煙になったとはいえ、既存の小規模飲食店は「喫煙可能」を選択できますし、施設内に喫煙専用室を設置することも可能だからです。
「喫煙室に人が出入りするとき、ドアの開閉が発生します。その際に『ふいご』の作用で、喫煙室内のたばこの煙が外に漏れ出てしまうのです」と、大和先生。
喫煙の区分
●一次喫煙:一般的にイメージされる「喫煙」のこと
くわえたたばこから喫煙者が直接吸い込む煙を「主流煙」といい、一次喫煙とはこの「主流煙」を吸うことを指す。
●二次喫煙:他人のたばこから出る煙を吸わされること
たばこの点火部から出る煙である「副流煙」は「主流煙」より有害物質が多く含まれる。喫煙室からの漏れは防止できないため、周囲で受動喫煙が発生。
●三次喫煙:喫煙者の衣類などから発生する有毒なガスによる被害
衣類や毛髪に付着したたばこの煙の粒子(タール)から発生する有毒なガスを吸わされること。近年注目されているたばこの被害。
問題はそれだけではありません。
上の図を見てみましょう。
これまでは、二次喫煙(受動喫煙)が問題でした。
しかし近年、喫煙者の衣類や髪などから揮発するたばこのガス成分による三次喫煙も健康被害の原因になることが注目されています。
「多くの人には『たばこ臭は不愉快』で済みますが、気管支喘息や化学物質過敏症がある人は発作を誘発し、妊婦は吐き気を催します」と大和先生。
「たばこの被害を完全に防止するには、屋内だけでなく敷地内を完全禁煙にするしかありません」と続けます。
禁煙に挑戦するにはいいタイミング
このような状況の中、「たばこをやめられるものならやめたい、という喫煙者も多くいます」と、大和先生。
そのような喫煙者に対し、大和先生は「もし少しでも『たばこをやめたい』と思っているのなら、いい機会です」。
その理由の一つは、今年世界を脅かしている新型コロナウイルス感染症です。
「たばこは呼吸器系の免疫力を落とします。海外の研究で、喫煙者は非喫煙者に比べインフルエンザの罹患と重症化のリスクが高いことも分かっています。新型コロナも同様に、喫煙者のリスクが高いと考えられます」(大和先生)
実は、大和先生もかつては喫煙者。
8回目の挑戦で36歳のときにようやく禁煙に成功したそう。
そんな大和先生は、「ニコチンを補給するガムやパッチ、ニコチンを感じる細胞をブロックする内服薬があります。科学的な方法を利用して禁煙に挑戦するのがおすすめです」とアドバイス。
「やめたいのにやめられない」という場合、参考にしてみては?
取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ