新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。
「現金」から「カード」へスライドし始めた詐欺師たち
「このたびは、ハンドバックのご購入ありがとうございます」
大手の百貨店の女性店員から、高齢女性宅へ電話がかかってくる。
「はい?何のことでしょうか?私は買っていませんよ」
「えっ、そうなのですか?あなたのクレジットカードを使い、買い物をした人がいますよ。どうやらクレジットのカード情報などが洩れて、不正に使用されているようですね。警察に通報しておきます」
まもなくして警察から電話がかかり、「あなたの個人情報が詐欺犯にわかってしまい、悪用されていることがわかりました。これ以上の詐欺を防ぐために、すぐにカードを変えてください」と言われて、信じ込んでしまう。
これは、権威のある人から言われると無条件で従ってしまう「ハロー(威光)効果」といわれる心理効果だ。
このテクニックを使い、銀行協会や金融庁などへ電話をするように指示される。
ちなみに、銀行協会は実在する団体である。
デパートにしても警察にしても、実在するものをかたるゆえに、高齢者はウソだとはなかなか見抜けない。
高齢者が指示された協会の番号に電話をかけると「すでに事情はうかがっています。これ以上の悪用を防ぐために、すぐにカードを切り変えましょう」と言われる。
さらに「クレジットカードだけでなく、キャッシュカードも不正利用されているので、セキュリティを強化するために変えましょう」そう言われて、家を訪れた銀行協会をかたる男に持っていたカードをすべて手渡すことになる。
当然、「本人かどうかを確認するため」などという口実で、暗証番号は事前に電話で聞かれている。
結果、詐欺犯たちによってだまし取られたカードは勝手に使われて、1日の限度額いっぱいの金額をATMから引き出されてしまう。
カードをだまし取る手口には、この他にもさまざまあるが、いずれの場合もカードをだまし取られたことに本人がしばらく気づかないため、数日のあいだに現金を何度も引き出されてしまい、被害が大きくなってしまう。
2017年には、70代女性が「あなたの個人情報が流出している」という電話を受けて、詐欺犯にキャッシュカード12枚を渡してしまい、約2億円を超える額が口座から引き出されてしまっている。
こうした他人のカードから金を引き出す役目をするものを「出し子」という。
最近、よく警察から、犯人逮捕のためATMから現金を引き出す「出し子」の写真が公開されるが、この種の犯罪が増えていることの証左であろう。
この手口が流行った理由は、2つある。
まず、クレジットカードの不正利用のニュースがたびたび報道されており、実際に「カードを勝手に使われた」という話も周りで聞くことがある。
私たちの身に起こりやすい事象を用いて、話を持ちかけている。
もうひとつは、「現金が必要と言われたら、詐欺」という注意喚起が徹底された点を突いている。
詐欺師たちは、私たちの警戒しているポイントをかいくぐるように、現金自体ではなく金を引き出すためのカードを狙う方向にスライドさせてきたのだ。
つまり、「現金をとられまい」と心に深く刻む高齢者ほど、カード詐取という方法でだまされてしまうことになる。
今の詐欺は「ATMからお金を振り込んで」とも言わない、「現金を渡して」とも言わないものも出てきているのだ。
詐欺師らは、これまでの「ATMでの振り込みを指示されたら、それは詐欺」といった詐欺対策に、新たな手口をかぶせることでその効果を無力化する。
いや、それどころかこれまでの対策を、次の詐欺をおこなうステップにしていると言ってもいい。
ゆえに私たちが今抱いている詐欺や悪質商法に対する対策や常識が、必ずしも明日も使えるものとは限らないということを常に肝に銘じておく必要がある。
詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅