新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。
詐欺師が使う、「カモ度」を測る、金額による数値化戦略とは?
「3000円のブレスレットを注文したいのですが」
ダイレクトメールのパンフレットに載っていた「金運アップのブレスレット」を購入するために電話をかけた。
しかし、業者の男はなぜかすぐには注文を受け付けない。
「このブレスレットはオーダーメイドなので、あなたの悩みを聞いてから、どの商品がいいかを判断します。現在、お持ちの悩みをお聞かせください」
私は「この不況下、なかなか収入が安定せずにお金が貯まらない」「安定した収入がない」という金銭的な悩みを話した。
「なるほど金運アップをお望みですね」と深刻そうに「うん、うん」と相槌を打ちながら、次のような提案してくる。
「わかりました。あなたには金運アップのブレスレットが必要です。一番お勧めするのは、ゴールデンルチルという石をあしらったものです」
「おいくらですか?」
「40万円になります。これは、金運に絶大な力を発揮します。いかがでしょうか?」
あまりの想定外の高値に「高い!ムリです」と答えた。
業者は、しばらくはこの金額を押してきたがあきらめたようで、次にパワーストーンに替えて「5万円ではどうですか?」と提案してきた。
一気の35万円引きである。
ずいぶん安くできると思い、もう少し様子を見ていると「4万円でどうでしょうか!必ず金運はアップします」と言い出した。
「もっと安くなりせんか?」とごねると、
「では、3万円でどうでしょうか?絶対に効果があります」
さらに1万円になり、最終的には8000円になった。
結局、注文するだけで30分以上の時間がかかったのである。
雑誌やネット上には、ペンダントや財布など「仕事運、恋愛運などをアップさせる」という開運グッズの広告が溢れかえっている。
この業者は、手ごろな値段が書かれている商品を注文してきた人に対して、オーダーメイドを口実に悩みを聞き出しながら、なるべく高値で商品を売ろうとしてきたわけだが、ここには悩みを数値化して物を売るという巧妙な手法が潜んでいる。
悩みというものは目に見えず、つかみづらいものだ。
そこで悩みの深刻度を、ブレスレットの金額という形に置き換えながら探ってきたのだ。
えてして詐欺や悪質業者は、私たちが抱く不満や不安の大きさをはかるために、金額による数値化をおこなう。
そうすれば、効率的に高い値段で相手にものを売りつけられる。
そして、支払う金額が大きければ大きいほど、だますための「カモ度」が高い人と判断して、次のだましの戦略も立てられるというわけだ。
数日後、商品が届いた。
私はしばらくブレスレットを身につけながら、「運の効果」が訪れるのを待ってみた。
過去に出した本がバカ売れして、多額の印税が予期せず入金されているのではないか?
たびたび銀行を訪れてみたが、何も入金はない。
近くの競馬場に1万円を握りしめて行ったが、すべてすってしまった。
1か月ほどブレスレットの効果を試してみたが、金運は上がるどころか下がる一方だった。
業者は広告や注文の電話で、ことあるごとに「絶対」「必ず」という言葉を出して金運アップを訴えてきたが、すべてはハッタリで誇大な表現であったことは言うまでもない。
多くの場合、このブレスレットを使用しているあいだに業者から「ブレスレットを使用してみてどうですか?」と電話がかかってきて、その効果を尋ねてくる。
しかし、そもそも開運の効果のないものがほとんどだ。
使用者の多くは「金運、恋愛運はよくなりません。効果がまったくありません!」と答えることだろう。
実は「まったく効果がない!」という否定的な言葉こそ、彼らの思うツボにはまることになるのだ。
すると、業者は言う。
「おかしいですね。この開運グッズは購入者のみなさんから効果があると言っていただいています。あなただけに効果がないということは、もしかして......」
「なんですか?」
「あなたの因縁が深すぎて、この開運グッズだけでは効果が出ないということではないでしょうか。知り合いに運勢を見てくれる有名な霊能師がいますので、ぜひとも鑑定してもらったほうがいいですよ。このままでは、あなたはどんどん不幸になってしまいます」
そこで、購入者が紹介された霊能師に電話をかけると、
「あなたは悪因縁に支配されている。このままでは人生が大変なことになってしまう。先祖の悪い霊を、寺で供養する必要があります」と言われて、供養や祈祷の名目で数百万円の金を振り込まさせられてしまうのだ。
しかも、すべて電話だけのやりとりでおこなわれる。
以前には、被災した50歳代女性が雑誌広告を見て「願いがかなう」数珠を約1万5000円で購入したあとに、見舞金の全額50万円を振り込むように言われ、「運気を上げる」という水晶玉などが送られてきた。
さらに次々と開運商品を勧められたので「もうやめたい」と言うと、「交通事故に遭ってもいいのか」と脅されている。
詐欺業者にとって、私たちの「断る」という行為は想定ずみなのだ。
待ってましたとばかり、その言葉のウラを突いてきて、だましてくる。
野球で言えば、ホームラン性の当たりをフェンスの壁にあててボールをうまく処理して、2塁でタッチアウトする。
リバウンド心理テクニックだ。
ところが、私の場合はそうした勧誘がなかったばかりか、通常よくおこわれる効果の出る使用法を尋ねるように仕向けてくることもなかった。
その理由はもうおわかりだろう。
それは、あまりにも金額を値切ったために悩みの深刻度が低いと判断され、「金を取れる脈なしの人物」と査定されて、次の勧誘がなかったのである。
だまされないためには金額を値切るなどして、簡単には相手の言いなりにならない姿を見せて、カモ度の評価を下げさせることが大事なのだ。
詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅