暮らしの中の断捨離を提唱するやましたひでこさんは、著書『家事の断捨離』(大和書房)で、家事の常識を断捨離することこそが大切だと言います。モノを減らせば、家事も減る。やました流「家事に追われなくなる秘訣」を連載形式でお届けします。
©️福々ちえ
「収納」こそが家事を大変にしている
これから家事について、「こうすべき」「これが正しい」と思い込んでいたことを、1つひとつ検証していきましょう。
その思い込みこそ、家事を面倒で大変なものにしているのですから。
トップバッターが、「収納」です。
モノを収納したら、散らかった部屋が片づくと思っていませんか?
ごちゃごちゃしたモノを収納グッズで分類しようとしていませんか?
断言します。
「収納」で問題は解決しません。
「収納」がいかに家事を大変にしているか、あるお宅の例を見てみましょう。
雑誌の「断捨離ビフォア・アフター」企画で訪れたお宅。
30代のご夫婦に、お子さんが5人。
末っ子はまだ赤ちゃん。
よくがんばっているなあと感心します。
生活必需品を買うことに時間とエネルギーを注ぐことが最優先。
子どもたちはおなかを空かせて食事を待っている。
衣類もたくさん準備しておかなくては。
おもちゃも勉強道具も更新していく必要がある。
そんな生活の中で、モノを始末していくことに時間もエネルギーも注いではいられません。
料理好き、もてなし好きのお母さんは、食材が詰まった大型冷蔵庫と食卓テーブルにはさまれて、料理に精を出しています。
調理道具がぎっしりの棚から、鍋やフライパンを器用にとりだして。
収納扉の前には、特大サイズの調味料(これも問題)がキッチンの床に直置き(これも大問題)され、開かずの扉になっています。
冷蔵庫は扉を全開にしても、見える食材は表面だけ。
奥に何がストックされているかはわかりません。
だから食料品はすべて二重買い。
食料を確保するためには、とにかく買い続けるしかありません。
納戸という名の「ゴミ捨て場」
各部屋には備えつけ収納がありますが、どこもパンパン。
入りきらないモノは床にあふれています。
では、どうするか?
そこで、一番身近なところに「捨てる」わけです。
それが、納戸という名の「ゴミ捨て場」。
階段下の一畳にも満たない空間に、使わなくなったおもちゃ、お母さんの手作り品、お父さんの趣味のモノやキャンプ道具などが押し込まれています。
生ゴミや紙くずは、指定された曜日にゴミ出しするけれど、ちょっと大きいモノになると、とたんに捨てるのが億劫になる。
捨て方が限定されていたり、粗大ゴミ業者に連絡する必要があったり、料金がかかることもありますからね。
そこで、24時間利用可能な、手近で便利な「ゴミ捨て場」が登場するわけです。
問題なのは、ときどき「ゴミ捨て場」に必要なモノが入り交じること。
手間と時間とエネルギーを使って発掘作業が行われます。
モノが納戸に移動したことによってリビングには空間が生まれ、当人は「それなりに片づいている」とも思っています。
いわゆるゴミ屋敷ではありません。
「オシャレな部屋」を演出しようとしてもいます。
壁や棚には、かわいいディスプレイが置かれたり、つり下げられたり。
でもそのじつ、「オシャレグッズ」はホコリまみれ。
あたり前ですよね、掃除ができないのですから。
数多くのモノを1つひとつとりあげて、「掃く・拭く・磨く」の作業。
そんな手間も時間もエネルギーもあるはずがありません。
「収納」で解決しようとして、問題が大きくなっていることに気づいていないのです。
モノには、維持管理する手間と時間と空間がセットでついてきます。
ここではモノを「意識」の面から見ていきましょう。
「捨てたいけれど、捨てられない」理由は?
どんなモノが一番多いかというと、忘却グッズです。
「忘却グッズ」とは、存在を忘れてしまって意識に浮上しないモノ。
人間、見えないモノは忘れます。
そんな「忘却グッズ」に、私たちは場所をとられ、時間をとられ、手間をとられています。
「執着グッズ」は、意識に浮上しているけれど、捨てずにいるモノです。
多くの方が口癖のように言う「捨てたいけれど、捨てられない」モノたちですね。
思い出の品だったり、手作りの品だったり。
とはいえ、大事にしているわけではなく、ただ判断を先送りにしているモノ。
つまり、「不要・不適・不快グッズ」です。
AとBは、捨てるという「捨」の領域になります。
一方の「要・適・快グッズ」は、価値を見出し、自分のニーズや気持ちに沿ったモノです。
つまりCは、残る・残す領域。
「時間がかかる」ではなく「時間をかける、時間をかけたい」モノ。
「場所がとられる」ではなく、「場所を与えたい」モノ。
「手間がかかる」ではなく、「手間をかけたい、手入れがしたい」モノ。
心の状態がぜんぜんちがいますよね。
「忘却グッズ」と「執着グッズ」は、残念ながらハートが壊れています。
「要・適・快グッズ」はハートフル。
使う人とモノが心地よい関係を築いています。
ただし覚えておきたいのは、これら3つのカテゴリーは時間の経過とともに変わっていくということ。
「要・適・快グッズ」が「忘却グッズ」になったり、あるいは「執着グッズ」になったり。
変化要素満載なのです。
分類して満足の「ラベリング収納術」
私もかつて「収納術」にトライしたことがありました。
まず最初にしたことは、収納グッズを買うこと。
収納グッズにこまごましたモノを収めると、ひとまずモノは視界から消えます。
すると、モノの存在は忘れます。
収納は、収めて見殺しにしているようなもの。
いってみれば、収納こそ、忘却グッズ促進剤。
そして、増えていく収納グッズによって、空間はどんどん狭くなっていく「収納術」の先生は、ラベリングしてモノを分類するテクニックも教えています。
仕切りを作ったり、シールを貼ったり。
まず、それだけで手間がかかります。
ラベリングを始めると、ラベリングを完成させることが一番の目標になっています。
雑誌には、美しい収納空間がページを飾っています。
色とりどりの調味料が並ぶ棚、システマティックな書類棚、種類別にまとまった文房具ストック......。
それらを見て、「自分にはとてもできない」と感じてしまう人もいるのではないかしら。
それもそのはず。
高いレベルで毎日毎日「収納」できる人なら、その状態が保てるのです。
つまり、専門家ならできる。
それが職業ならできるわけです。
でも、普段から忙しくしている私たちには、ハードルが高すぎます。
まるでジョギングしていない人に「フルマラソンを走れ」と言っているようなもの。
つまり、
収納するには、時間が必要。
収納するには、空間が必要。
収納するには、手間が必要。
モノを維持管理することはとても難しいものです。
管理が難しくてケアできないから、ホコリの温床になる。
管理が難しいことは、もうやめてしまいませんか?
ラベルを貼って管理しなければならないほどモノを持たないで、と私は言いたいのです。
そもそも、ラベルのもとに、使ったモノを戻すという発想もまちがい。
モノが過剰になければ、どこに戻しても一目瞭然というのが断捨離です。
人間は、どれだけ手間を省きたい生き物なのか。
どれだけ「ちょい」で済ませたい生き物なのか。
人間心理を考えてみれば、「収納術」は甘い思考といわざるを得ません。
「散らかり」には、もはや整頓、収納という解決策ではムリなのです。
整頓・収納する前にすることは、
・モノを減らす。
・モノを絞り込む。
・モノを選び抜く。
つまり、断捨離が不可欠です。
選び抜かれた最適量のモノだったら、たとえ散らかったとしても回復が容易ですから。
イラスト/福々ちえ
4章にわたって、夜、朝、週末とシーンに合わせたあらゆる家事を軽くする断捨離メソッドが学べます