人生の大転換期である「定年」。その後の暮らしが不安と言う方も少なくないでしょう。そんな人生の後半を楽しむためには、生活空間にあるあらゆるモノを点検し、先の人生を共にしたいモノを選び抜くことが重要だと「断捨離」の考案者・やましたひでこさんは言います。そこで、やましたさんの著書『定年後の断捨離~モノを減らして、愉快に生きる』(大和書房)から、「不要・不適・不快」を捨てて、「要・適・快」を招き入れられる「人生の断捨離」のヒントを連載形式でお届けします。
「主婦を定年退職します!」宣言
定年退職して、ようやく家でゆっくりくつろげる。
趣味に打ちこめる。
夫婦ふたりで旅行にでも出ようか――。
そんな平和で愉しげな光景を思い描いているのは、夫ばかりかもしれません。
妻のほうは、「ずっと家にいられたら、夫の世話が増えるばかり......」と内心ため息をついている人は少なくないはず。
妻と夫の間には、長年の家事に対する温度差が横たわっているのです。
妻は夫が家事を手伝ってくれないと思い、夫はそれなりに負担していると思っています。
家事は、同じ空間、同じ時間を長い間共有する運命にある夫婦に、大きな影響をもたらします。
結婚当初は愛しい存在だったお互いが、やがて不平不満の対象となり、挙句の果て、熟年離婚を考えるまでになっているのです。
ところで、この生きていくために必須の家事というものを、面倒でむなしいものにおとしめてしまう理由はなんでしょう。
それは、言うまでもなく「積んでは崩し」の繰り返しだからです。
懸命につくった食事のあとは、たちまち汚れた食器がシンクにたまります。
食器を洗い終わっても、次の食事づくりがすぐまたやってくる。
洗濯ものも、洗ってたたんで片づけても、また翌日には山となっている。
散らかった部屋を片づけても、すぐまた散らかる。
毎度、「元の木阿弥」の家事を、生産性のない徒労感あふれるものとみなしてしまうのは無理もないでしょう。
その家事をよりつらくしているのは「やらされ感」、つまり「私ばっかり......」という意識ではないでしょうか。
よい主婦、よい妻、よい母でありつづけようと、周囲からの要求にがんばってこたえてきた女性たちは数多くいます。
彼女たちは、本来の自分、女性である自分を封じこめ、知らずしらずに自分に制限をかけてきています。
そんな命の欲求と、懸命に社会的な役割を担っていこうという意識の不調和は、やがて心や身体に影を落としていきます。
ぜひ本来の女性である自分を解放してあげてください。
定年後の家事は、自分のための家事
テレビ番組の断捨離企画で訪れたお宅は、「いい夫婦だなあ」と思わず心が和むご夫婦でした。
夫は前年に商社を定年退職し、妻は長年専業主婦をしていました。
結婚した当初、妻はお姑さんに、「息子の言うことはすべて聞きなさい」と告げられたそうです。
以来、それを忠実に守ってきました。
そして、夫が定年を迎えたとき、彼女はこう宣言したのです。
「私は、あなたのお母さんに言われたことをずっと守ってきました。でもあなたは定年退職したから、私も主婦という役割を定年退職します」
夫はひと言、「わかった」と返事をし、それからは一生懸命家事をするようになったそうです。
こういうやりとりができるのは、やはりいい夫婦だと思いました。
いろいろな苦労もあったでしょうが、お互いが信頼関係を築いてきたことが垣間見えました。
家事は、誰がするという決まりはありません。
夫が働きに出ている場合、役割分担として妻が家事を担う家庭が多いことは事実でしょう。
それならば、夫婦共働きの場合、あるいは夫婦共に家にいる場合、どちらか片方に負担がかからないようにしたいものです。
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